研究課題
慢性炎症は様々な癌のrisk factorであり、抗炎症薬であるNSAIDsは各種癌に対して癌関連死亡を減少させることが報告されている。一方で、癌幹細胞は各種癌において治療抵抗性や転移再発に関与することが知られているが、膵癌における最も臨床的意義を有した癌幹細胞マーカーは明らかにされていなかった。近年、炎症性サイトカインであるプロスタグランジンE2(PGE2)が正常組織における幹細胞の拡大に関与することが知られているが、癌幹細胞におけるPGE2の役割は明らかでは無い。本研究の目的は、慢性炎症における臨床的に有用な膵癌幹細胞マーカーを検討するとともに、膵癌幹細胞分画拡大を介した膵癌進展メカニズムを明らかにすることであった。臨床検体における免疫染色による発現解析を実施し、膵癌細胞株を用いた目的遺伝子のknockdownおよび過剰発現を行った際の機能解析を行った。さらにinhibitorや中和抗体を用いた解析によって膵癌細胞株の増殖能・sphere形成能に与える影響を評価し、治療戦略としての可能性を評価した。さらに膵腫瘍自然発症モデルマウスに遺伝子改変マウスを組み合わせたin vivoでの検証も並行して行うことで、生体内における腫瘍形成・膵癌幹細胞マーカー発現への影響まで評価した。PGE2の分解酵素である15-PGDHの膵癌微小環境における発現メカニズムを見出し、研究成果を報告した(Arima et al. Cancer Sci 2018)。今後、これらの知見に基づいて15-PGDH発現が膵癌進展に与える影響について詳細に検討を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
臨床サンプルの発現解析、遺伝子改変マウスの供与など、それぞれの研究組織が得意とする多施設での共同研究を展開することができている。これまでの解析から得られたデータの中から、PGE2の分解酵素である15-PGDHの膵癌微小環境における発現メカニズムを見出し、日本癌学会のofficial Journalへ研究成果を報告した(Arima et al. Cancer Sci 2018)。また、研究の成果は日本国内の複数の全国学会、アメリカ癌学会総会にて報告を行った。
膵癌微小環境においては、腫瘍関連マクロファージが炎症性サイトカインIL-1βを介してPGE2の分解酵素である15-PGDHの発現を抑制しているメカニズムを明らかにした。今後これらの知見に基づいて、15-PGDH発現が膵癌進展に与える影響について詳細に検討を行っていく予定である。さらに、他癌腫ではIL-1βの阻害剤を用いた臨床試験も現在進められており、膵癌においても臨床応用を目指せるよう更なる詳細なメカニズム解析を行っていく。
H29年度は、医局内保管の試薬、消耗品を使用することができた。今後、15-PGDH発現が膵癌進展に与える影響について詳細に検討を行っていく予定であり、研究費はその際の試薬及び器機などの消耗品購入費に充てる。また、解析結果の管理、集約や資料整理を行ってもらう事務補佐員の雇用経費に充てたいと考える。
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