研究課題
慢性炎症は様々な癌のrisk factorであり、慢性炎症によって活性化されるプロスタグランジンE2(PGE2)などのアラキドン酸カスケード代謝産物は高い生理活性作用を有する。近年、PGE2合成酵素であるシクロオキシゲナーゼに加え、分解酵素である15-PGDHの抑制によって細胞内PGE2が蓄積し、正常組織幹細胞分画の拡大を介して組織修復能が亢進することが報告され(Zhang et al. Science 2015)、世界的に注目を集めている。本研究の目的は、膵癌における15-PGDHの発現メカニズムおよび発現意義について明らかにすることであった。臨床検体における15-PGDHおよび膵癌幹細胞マーカーの発現解析、また膵癌細胞株を用いて15-PGDH遺伝子の機能解析を行った。その過程で、膵癌微小環境において腫瘍関連マクロファージの産生する炎症性サイトカインであるIL-1βを介した15-PGDH発現制御メカニズムを見出し、研究成果を報告した(Arima et al. Cancer Sci. 2018)。さらに膵腫瘍自然発症モデルマウスと15-Pgdhノックアウトマウスの交配を行い、生体内における腫瘍形成・膵癌幹細胞マーカー発現への影響について評価を行った。その結果、15-PGDHの発現低下によりALDH1陽性癌幹細胞分画が拡大し、腫瘍内の全トランスレチノイン酸(ATRA)の枯渇を介して腫瘍増殖を来たす新規メカニズムを見出した。さらに慢性炎症などの影響でPGE2が蓄積した膵癌症例にはATRAが新規治療薬として有用な可能性が示唆された。これらの研究成果を米科学誌へ報告した(Arima et al. Oncogene. 2019)。この研究の過程で新規作製した15-Pgdh欠損膵癌モデルマウスはヒト膵管癌に組織的に類似しており、今後膵癌バイオマーカー研究への応用が期待できる。
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