胃癌細胞株(MKN45)に低浸透圧刺激を加えると、細胞容積増大とともにパクリタキセルの細胞内取り込みが亢進することを確認した。一方、低浸透圧刺激によりパクリタキセル取り込み(OATP1B3)や排出(MDR1)に関与する膜輸送体の発現レベルや機能活性(OATP1B1/3の阻害剤であるRifampicinを使用して検討)には変化が見られないことを確認した。また、胃癌細胞株におけるAQP5蛋白発現と容積感受性陰イオンチャネルであるLRRC8A蛋白発現を確認した。胃癌細胞株においてAQP5を過剰発現またはLRRC8A発現を下方制御すると、低浸透圧刺激時の細胞容積増大が亢進することは確認できたが、明らかなパクリタキセル取り込み亢進までは確認できなかった。また、胃癌細胞株に低温刺激(24度)を加えるとAQP5蛋白発現レベルが上昇し、低浸透圧刺激時の調節性細胞容積減少(Regulatory volume decrease:RVD)が抑制されることを確認した。一方、MKN45細胞において、低浸透圧刺激時にクロライドチャネルブロッカーであるNPPBを併用すると、RVD抑制が生じるとともにパクリタキセルの細胞内取り込みが増強することを確認した。以上の結果から、低浸透圧刺激による細胞内PTX取り込み亢進においては細胞容積変化が重要であり、“RVD制御を介した癌細胞パクリタキセル取り込み増強効果”という新たな分子生物学的・生理解剖学的メカニズムを明らかにした。低温刺激によるAQP5発現変化やRVD抑制についての研究結果はすでに英文雑誌に投稿中であり、低浸透圧刺激による細胞内パクリタキセル取り込み亢進についての研究結果については現在英文雑誌への投稿準備中である。
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