研究実績の概要 |
本研究では、MICA遺伝子多型が大腸癌肝転移の治療応答性や予後にどのような影響を与えるか、またそうした臨床上の差を生み出す機序に関して基礎的検討を行った。まず、大腸癌肝転移におけるMICA遺伝子多型による予後の差について171例を対象として解析を行った。がん組織と正常肝組織のMICA遺伝子型は95.3%で一致し、MICA A5.1ではその他の多型と比較して無再発生存 全生存とも良好であり、多変量解析にてもMICA A5.1はハザード比0.47 (95% CI, 0.25-0.88)で無再発生存期間を延長させることが示された。次に血清の解析が可能であった36例についてMICA多型と血中MICA濃度の関係を検討したところ、MICA A5.1ではその他の多型と比較して血中MICA濃度が高く(65.7±50.3 pg/dL vs. 27.8±53.7 pg/dL、P=0.016)、多変量解析では血中MICA濃度高い方が化学療法に対する形態学的奏効が得られやすいことが示された(χ2 4.1, P=0.04)。さらに炎症マーカーである好中球リンパ球比、リンパ球単球比を見てみると、MICA A5.1とその他の比較において、それぞれ2.01 (IQR, 1.35-2.29) vs. 2.25 (IQR, 1.66-3.34)(P=0.032)、4.75 (3.84-6.28) vs. 4.03 (2.78-5.33)(P=0.054)とMICA A5.1においてリンパ球の割合が多い傾向が確認された。以上から、①大腸癌肝転移におけるMICA遺伝子多型は患者自身の遺伝学的背景に基づくものであり予後因子となること、②MICA遺伝子多型は血中MICA濃度と相関があり化学療法に対する応答性に影響を与え得ること、さらに③MICA遺伝子多型により患者の免疫応答に差がある可能性が示唆された。
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