ヒトiPS心筋細胞を温度応答性培養皿を使用することでヒトiPS心筋細胞シートとし、無胸腺ラットの皮下組織上に移植すると生着し、in vivo下でヒトiPS心筋組織を安定して培養できることを我々のグループは報告してきた。 本研究の当初の計画としては、令和2年度までに、①ヒトiPS心筋組織の作成と力学的・電気生理学的機能の測定 ②ヒトiPS心筋組織の成熟度の構造的・分子学的・遺伝子的な評価 ③ヒトiPS心筋組織の成熟度の指標の確立 ④ヒトiPS心筋組織の種々の条件下での培養と成熟を促進する因子の解析 を行う予定としていた。 今までの成果としては、in vivo培養下でのヒトiPS心筋組織の表面電位を培養1カ月後と培養3カ月後で測定し比較したところ、培養3か月後の電位波形の方が培養1カ月後の表面電位波形に比べてばらつきが少なくなっていた。さらに3か月よりも長期間培養されたヒトiPS心筋組織の電位波形を培養3か月後の表面電位波形と比較してみると、さらにばらつきが少なくなっており、ヒトiPS心筋組織が時間経過とともに電気生理学的に成熟していくことが示唆された。また、3か月よりも長期間培養されたヒトiPS心筋組織では、成熟した心臓のようにペースメーキング部位の存在を示唆するような電位波形を認めた。表面電位波形の安定とペースメーキング部位の出現がヒトiPS心筋組織の電気生理学的な成熟段階の指標となる可能性があると考え、サンプリングしたヒトiPS心筋組織の分子学的・遺伝子学的解析の結果とともに学会で発表を行った。 ペースメーキング部位の出現は、未報告の予想しない新しい所見であり、成熟段階の指標となりうる重要な所見と判断した。詳細に検証するため、表面電位のmappingを施行する方針とした。しかし、研究期間が不足するため、前年度応募を申請し、2020年度分から採択されたため、研究を続行する予定である。
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