本研究では、シルクフィブロイン(SF)を基盤材料とし、虚血性心疾患等を初めとする虚血領域において、血管新生による血行再建と心機能回復を期待する血管新生シートを提案することで、新たな治療法としての可能性を検証することを目的とする。 既報で用いたシルクフィブロイン(SF)シートは臓器貼付には不適切な物性であったが、これを基盤として物性を改良しペプチドの結合が可能な工夫を加えることに成功した(OSFフィルム)。OSFフィルムについては、架橋構造形成により親水性と柔軟性が付与され、物性の改質を認めたことから、酵素濃度依存的なフィルムの物性制御を概ね確立することに成功した。これらは架橋による網目構造形成と二次構造割合の変化が寄与したことが示唆されている。上記OSFフィルムへのヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の接着は良好であり、優位な細胞増殖が得られ、細胞増殖性も増加した。細胞接着性と細胞増殖性の向上は物性改質に依存した変化が示唆された。 2018年度から、得られたOSFフィルムを血管新生フィルムへと応用するため、フィルム内部への機能性物質(線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体と特異的に結合する機能性タンパク質)をOSFフィルムに担持させた徐放フィルム作製の検討を進めた。しかしながら、機能性物質をOSFフィルム内へ含浸させ、徐放実験を実施したところ、徐放開始後短期間での初期バーストが著しく、OSFフィルムに機能性を担持させることが困難であることが判明したため、その後は機能性を維持させるための検討を継続している。
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