研究課題
これまでに申請者らが樹立した様々な分子標的薬耐性肺がん細胞株(耐性株)を用いて、薬剤耐性化機序および克服方法を引き続き詳細に検討した。遺伝子の変化(二次変異やコピー数の異常)を中心とした既知の薬剤耐性化機序以外にも、これまでに報告のない新たな耐性化機序を同定し、これらを克服するための新たな治療薬の効果を検討した。HER2遺伝子に異常を有する肺がん細胞株に対し、HER2分子標的薬であるアファチニブを用いて樹立した耐性株についての検討では、MET遺伝子増幅等の既知の耐性化機序の他に、HER2遺伝子の増幅および過剰発現の消失、上皮間葉移行(EMT)特性、およびがん幹細胞(CSC)様の特性を有する耐性株が出現した。これらのEMTやCSC特性を獲得した耐性株は、薬剤耐性化前と同様に一部抗がん剤への感受性を示していた。また、EGFR遺伝子変異を有する肺がん細胞株よりEGFR分子標的薬(ゲフィチニブ、オシメルチニブ等)を用いて樹立した耐性株についても、様々な薬剤耐性化機序を同定した。オシメルチニブについては、耐性株で炎症性サイトカインを含むがん微小環境との密接な関係を有する分子であるAXLが過剰発現していることを突き止めた。これらの耐性株については、AXLを含む複数のキナーゼを阻害する薬剤をオシメルチニブと併用することで、薬剤耐性を克服できる可能性を証明した。一方で、近年様々ながん種で効果が期待されている新規薬剤の一部(HSP90阻害剤等)が、薬剤耐性化機序に関わらずEGFR変異肺がんに強い効果を示すことを明らかにした。これらの結果から、治療が困難と考えられてきた分子標的薬耐性化後の肺がんについて、新たな治療法の可能性を示す多くの知見を得たが、他方で、がん微小環境を中心とした薬剤耐性化に関する機序には未だ不明な点も多く、今後の更なる検討が必要と考えられた。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Molecular Cancer Research
巻: 17 ページ: 499~507
10.1158/1541-7786.MCR-18-0628
Anticancer Research
巻: 39 ページ: 1767~1775
10.21873/anticanres.13283
Cancer Science
巻: 109 ページ: 1493~1502
10.1111/cas.13571