福島県立医科大学呼吸器外科における原発性肺腺癌切除検体216例を用いて検討した。KRAS遺伝子は肺癌の実地臨床では検索が行われることのない遺伝子変異であるため、まず肺腺癌において最も多い遺伝子変異であり広く検索されているEGFR遺伝子変異の有無について症例を層別化し、FAM83B発現を比較した。EGFR遺伝子変異陰性例において有意にFAM83BはmRNAレベルで高発現であることを cDNAマイクロアレイの結果から確認した。また、ヒト肺腺癌由来細胞株を用いた検証を行い、FAM83B高発現株、低発現株双方においてFAM83B発現をsiRNAを用い てノックダウンしたところ増殖が有意に抑制される結果を得た。FAM83B発現がEGFR遺伝子変異陰性肺癌における発癌や腫瘍の細胞増殖へ関与している可能性があることが考えられた。文献的には正常細胞でもFAM83Bは低レベルでの発現があり、また低発現細胞株でもノックダウンでの増殖抑制が確認されることからFAM83Bは正常細胞の恒常性維持や増殖に関与している可能性があると考察された。これらの結果はOncology Letters (2018 Feb;15(2):1549-1558. doi: 10.3892/ol.2017.7517. Epub 2017 Dec 5.) に論文投稿し報告している。また、別途研究で全エキソーム解析が行われドライバー遺伝子変異が特定されている47例の肺腺癌組織で検討を行い、KRAS遺伝子変異症例でEGFR遺伝子変異症例やALK融合遺伝子変異症例よりも有意にFAM83B mRNA高発現であることが示された。さらにKRAS変異肺腺癌の中でも10例の少数の検討ではあるが病理学的に粘液産生性を示す腫瘍組織中で有意にFAM83B mRNA高発現であることが確認された。粘液産生性肺腺癌はKRAS遺伝子変異治療標的である可能性についてさらなる検討を要する。
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