研究実績の概要 |
これまでの実験で、H2009とLC-2/adが肺癌におけるdormancyの候補となりうることが解明された。dormancyにおける分子動態の解明のため、in vitroでの浮遊培養系を用いて検証を行なった。 肺がん細胞は低接着プレートに移植した直後は細胞数が一気に減少するが、いずれ定常状態に達し、数ヶ月後に再増殖し従来の接着細胞に比べ高い増殖能や転移能力を獲得する[Nakano T. et al, Plos One 2017.]。左心室に移植し生体内を浮遊・循環しているがん細胞にも同様の変化が起きていると予想される。細胞数の再増殖までにかかる期間は細胞により異なり、高転移株では再増殖までの期間が短く、低転移株では長く2ヶ月以上経過しても再増殖を認めない。これらの結果から、がん細胞は浮遊環境の初期段階においては何かしらの抑制因子により増殖が抑制されdormancyの状態になっている可能性が考えられる。これらの細胞を採取しmetabolome解析およびmRNA profilingを用いて解析した。現在結果を解析中であるが、解糖系やアミノ酸代謝などの代謝経路においてdormant cellでは著明な活性化がみられる傾向にあり、これらの細胞はdormant stateにおいて何かしらの代替エネルギーにより生存を維持している可能性が示唆された。 また、in vitroにおいて微小転移をより高い感度でモニタリングする目的でこれまで用いてきたluciferinの代わりにakalucを添加した細胞の作成を行なった。Akalucは理研で開発されたD-luciferinの変異体であり、同様に開発された人工基質であるAkaLumineと共反応し従来法に比べ検出感度が100~1000倍向上している。生体内においてsingle cellレベルでの観察も可能であり[Iwano S. et al. Science, 2018]、我々のモデルでの微小転移の検出に適していると考えている。
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