内視鏡外科手術は、小さな創に挿入したトロカ(筒)から内視鏡(カメラ)や鉗子を体腔内へ入れて行う手術方法で、身体への負担が軽減できる低侵襲性という恩恵の一方で、術中のトラブルは大きな事故につながる危険がある。日本医療安全調査機構は、2018年に医療事故再発防止に向けた提言のなかで、「手術シミュレータの開発」を挙げているように、術前の手術模擬やトレーニングの重要性が強調されている。 本研究の目的は、縦隔や胸壁疾患に対する胸腔鏡手術を手術前に模擬できるシステムを構築する事である。早期実現のために、腹腔鏡外科手術用に開発されたPASS-GEN®(三菱プレシジョン社)を胸部用に修正設定することで、患者のCT画像データから、病変と周辺臓器を抽出し、術野の3D画像を作成した。さらにカメラおよび手術器械(鉗子など)の挿入位置を、パソコンモニター画面上に作成した胸壁上で様々に移動させ、視野や鉗子操作性のよい位置を探索できるよう模擬訓練(トロカシミュレーション)することができた。 研究では6例(縦隔腫瘍3例、胸壁腫瘍3例)で、術前にCT画像から術野を模したヴァーチャル立体画像を作成した。PCモニター上で、腫瘍と周辺臓器との位置関係などが手に取るように認識でき、手術計画に有用であった。またこのうち4歳児の縦隔腫瘍例では、協同手術を行った小児外科チームと術前に詳細な手術の模擬検討を行うことができた。 今回開発した患者個々の画像データを用いる手術シミュレータにより、とくに希少疾患に対する手術や、他診療科と協同で行う頻度の少ない手術の際に、立体的なイメージをもとに詳細かつ具体的に情報共有することができた。術中の臓器変形や変位が少なく比較的実現容易な縦隔と胸壁疾患を対象としたが、他領域への応用が期待される。
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