最終年度(平成30年度)は、ラットの脳腫瘍モデルの実験系を確立した。ラットは抑制性神経細胞に特異的蛍光標識を遺伝子導入したVGAT-venus transgenic ratを用いた。腫瘍細胞はtdTomatoで赤色の蛍光標識を施したC6グリオーマ細胞を用いた。試行錯誤を重ね、小動物用MRIも併用することで、最終的にラットの脳の視床網様核に定位的に腫瘍細胞を移植することで、視床内の唯一の抑制性神経細胞の集まりであるthalamo-reticular nucleusに腫瘍を浸潤させるモデルを確立した。MRIは、ラットが生きている状態で脳内の状態を観察することができ、狙った部位に腫瘍細胞が確実に移植されていることを確認しながら実験を進めることができた。これにより、移植が不成功の動物を早い段階で除外し、効率的に実験を進めることができた。この方法で確立したモデルを使用して、脳腫瘍細胞によって視床内の抑制性神経細胞が浸潤されてダメージを受けた際の、特徴的な変化を捉えることが可能となった。さらにimmediately early geneであるc-FOSを染色するため4種類の抗c-FOS抗体の染色性を検討し、抗c-FOS抗体(D-1)の視認性が良いことを確認し、神経細胞の興奮性の評価に用いることとした。 また、動物実験で得られた結果が実際に人間の脳腫瘍でも再現されうるかどうかを評価するために、てんかんを主症状として手術摘出された脳腫瘍の臨床標本における腫瘍本体および腫瘍周囲の正常脳組織におけるGABAの濃度を液体クロマトグラフィ法を用いて解析する実験系を確立した。
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