現在、集学的治療でも根治することのできない悪性神経膠腫について、新規の治療法の開発につながる腫瘍微小環境整備機構の解明を目的として研究を実施した。そのメカニズムの解明にあたり、本研究では特にエクソソームを含む細胞外小胞に着目した。先行実験において神経細胞から分泌された細胞外小胞が周囲の細胞に取り込まれる際、Negr1(neuronal growth regulator 1)タンパクの発現により、その取り込みが阻害されることを発見した。しかし、悪性神経膠腫由来の細胞外小胞においては同様のNegr1による取り込み阻害効果は認めず、当初の研究計画を断念した。 その研究過程において、悪性神経膠腫由来の細胞外小胞をマイクログリアが取り込む事象の可視化に成功し、またその細胞外小胞を取り込んだマイクログリア内での遺伝子発現が変化することを見出した。発現が変化する遺伝子をRNAシークエンスにて網羅的に解析し、中でも血管新生阻害効果のあるThbs1(Thrombospondin 1)に注目し研究をおこなった。正常星細胞由来の細胞外小胞を用いることにより、マイクログリア内のThbs1遺伝子の発現減弱効果が、悪性神経膠腫に特異的な作用であることを解明した。 また、細胞外小胞の産生にかかわるタンパクであるTSG101(Tumor susceptibility gene 101)の発現を減弱させた悪性神経膠腫細胞において、脳腫瘍モデルマウスを作成し、その腫瘍形成能が有意に減少し、生存期間も有意に延長することを示した。 以上により、細胞外小胞が悪性神経膠腫の腫瘍形成に強く関与しており、そのメカニズムとして細胞外小胞を介したマイクログリアの活性化による微小環境整備が示唆された。この機構のさらなる解明により、その阻害による腫瘍抑制効果につながり、新規治療の開発の可能性も十分に考えられる成果である。
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