研究課題/領域番号 |
17K16641
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
近藤 夏子 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (00582131)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射線脳壊死 / 生理活性脂質 / リゾホスファチジルコリン / ミクログリア |
研究実績の概要 |
放射線脳壊死(Radiation necrosis: RN)の病態進行において生理活性脂質の時空間的な偏在情報を調べるために、マウスRNモデルの脳の、照射後RNが形成されるまでの照射側の脳の経時的な生理活性脂質「前駆体」であるリン脂質の変化を経時的にMSイメージングで解析した。その結果、生理活性脂質であるリゾホスファチジルコリン(Lysophosphatidylcholine: LPC)の前駆体であるホスファチジルコリンのK+イオンphosphatidylcholine: PC(16:0/20:4)+K+が、照射側と非照射側に照射2日後から5.5か月の間変動して発現していることが確認された。興味深いことに、非照射側でも1か月後には優位にPC(16:0/20:4)+K+の上昇がみられ、脳全体に炎症が広がっていることが予想される。この挙動は、脳の免疫細胞であるミクログリアの挙動と一致していることが免疫組織染色によって明らかとなった。 さらに、RNモデルの慢性期6か月に照射側の皮質の方が非照射側皮質に比べて、 LPCが1.6倍優位に高いことがLC-MSにて明らかになった。このLPCは炎症性脂質メディエーターで、ヒト脳梗塞周囲のペナンブラ領域で神経やアストロサイトから放出され、G2AまたはP2X4受容体を介してミクログリアを活性化すると報告がある。以上から、放射線脳壊死モデルでは慢性期に神経細胞やアストロサイトからLPCの放出、ミクログリアの活性化が続いていると考えられる。ミクログリア活性化を抑えて炎症の遷延化を防ぎ、放射線脳壊死を予防する研究を、このRNモデルを用いて行うことを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線脳壊死(Radiation necrosis: RN)のマウスモデルの脳を経時的にMSイメージングで解析し、RNの病態進行に伴って変化する生理活性脂質「前駆体」をとらえることができた。 最初、網羅的にMSイメージングで解析してもRNに優位な変化を得ることが難しかったので、次年度予定していたLC-MSを用いて、6か月後のRNモデルの照射側脳皮質で定量的に優位に非照射側よりも高く発現している生理活性脂質を見つけることにした。その結果、リゾホスファチジルコリンが優位に高く、その前駆体であるリン脂質ホスファチジルコリンのK+イオンphosphatidylcholine: PC(16:0/20:4)+K+が病態進行とともに変動することをMSイメージングで発見することができた。今後も照射後急性期、亜急性期、6か月までのRNモデルの脳のリゾホスファチジルコリンを定量的変化をLC-MSで調べていく。
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今後の研究の推進方策 |
放射線脳壊死(RN)の進行にリゾホスファチジルコリン(LPC)という生理活性脂質が関与していることが明らかとなった。このLPCは、ヒト脳梗塞周囲のペナンブラ領域で神経やアストロサイトから放出され、G2AまたはP2X4受容体を介してミクログリアを活性化すると報告がある。今後はG2AまたはP2X4受容体の拮抗薬や作用薬を照射後のRNモデルマウスに投与し、RNの進行が抑制されるか否かを調べる。 さらにマウスRNモデルの脳脊髄液および血液中にリゾホスファチジルコリンもしくは代謝産物(脂質)、その代謝に関係する脂質代謝酵素が存在するか否かをLC-MSで調べ、バイオマーカー候補を見出すことが目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、初年度と次年度の実験の順序に若干の変更(次年度のLC-MS)を行ったために生じた。しかし次年度に行う実験によって使用するので問題なく使用する予定である。
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