研究実績の概要 |
私は、このサイトカインIL3とGM-CSFの組み合わせに関心を持ち、6-OHDA誘発パーキンソン病モデルに対し、IL3とGM-CSFの皮下注射を試みたところ、黒質緻密部ドーパミン神経細胞死が顕著に防がれ、極めて良好な転帰を得た(Choudhury et al. Brain and Behavior, 2011)。この研究において、それぞれのサイトカイン単剤を比較したところ、混合剤の方が、マイクログリアの神経保護作用や、神経細胞の抗アポトーシス因子Bcl-xL発現の増強作用が単剤に比べ勝っていた。 本研究では、ラット中大脳動脈一過性閉塞モデルに対し、翌日からIL-3とGM-CSFの混合物の皮下投与を5日間行ったところ、3ヶ月目までに脳喪失体積の減少、認知行動能力(水迷路、オープンフィールド、回転棒試験)の改善を見た。我々は、多くの薬物・成長因子類の投与をMCAOモデルに対し行ってきたが、翌日投与でこれほどの改善を見たものは他にない。 次にメカニズムであるが、パーキンソン病モデル研究から判明した抗アポトーシス因子Bcl-xLの発現変化を調べた。その結果、驚くべきことに、対照群の虚血辺縁部(ペナンブラ)ではマイクログリアにBcl-xL発現が見られてのに対し、IL-3とGM-CSF混合投与群では神経細胞にBcl-xLが発現し、マイクログリアでの発現は消失していた。これらの結果は、IL-3とGM-CSFが神経細胞のアポトーシスを抑制する結果、eat-me signalであるフォスファチジルセリンの神経細胞外部への露出が減少し、マイクログリアの活性化が抑制され、マイクログリアの貪食による神経細胞死の促進(phagoptosis)が抑制され、予後改善に至ったと結論した。
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