研究実績の概要 |
悪性神経膠腫の新たな治療法開発のため、我々は免疫療法に着目して研究を開始した。特殊な免疫機構を有する中枢神経系での抗腫瘍メカニズムを明らかにすることで、より効果の期待できる症例の選択、治療効果判定、有効性予測の免疫バイオマーカーの開発を行うことを目的としている。 当施設において治療された神経膠腫30例の腫瘍検体、血清を対象とし、次世代シークエンシング法による網羅的なT細胞受容体(T Cell Receptor : TCR)レパトア解析を行った。グレード4(膠芽腫)15例、グレード3(退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫、退形成性乏突起星細胞腫)7例とし、コントロールとしてグレード2(星細胞腫、乏突起膠腫、乏突起星細胞腫)8例をおいた。増幅しているTCRを定性的、定量的に解析し、アルゴリズムに基づいてClonality, Diversity Indexを算出した。さらに、これらの結果と、化学療法・放射線療法の有無、初発・再発、腫瘍のグレードによる差異などの臨床所見との関連を検証したところ、PFSの良いものにDiversity Indexが低い傾向が示唆された。そこで、個々の症例をより精密に検討するため、うち4検体に対して、TCRレパトア解析の追加検査を行い、同一症例の異なった時期、化学療法の前後での変化を比較、検討した。 現在、腫瘍検体の免疫染色(CD4, CD8, CD3)を行い、上記のTCRレパトア解析の結果および臨床経過との相関を、あわせて解析中である。そのうえで、腫瘍、末梢血で増幅するT細胞プロファイルの比較を行い、簡便な免疫バイオマーカーとなり得る可能性を模索する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度で得られた研究実績を踏まえ、さらなる検証を行う。 腫瘍検体の免疫染色に、FOXP3、PD-1、PD-L1を追加し、CD4+, CD8+, CD4+CD25+制御性T細胞の割合と臨床経過の相関、当施設で行ってきたペプチドワクチンに対する反応性を検討する。 各症例より得られたTCR情報から、増幅しているTCRサブクローン上位10セットを選び、全症例あるいは臨床的に予後良好例に共通して増幅するもののスクリーニングを行う。複数の候補より、免疫バイオマーカーとして有用性の高いものを抽出し、検討を行う。同時に、特異的免疫エピトープとなり得る脳腫瘍neoantigen 候補を同定し、評価する。選別した脳腫瘍neoantigenの予測アミノ酸配列から、HLA 結合性予測プログラム(BIMAS)およびプロテアソーム切断予測プログラム(PAProC)を用いてHLA-A24 およびHLA-A2 結合性エピトープペプチドを推測し、結合性の高い候補ペプチドを合成する。 上記の研究で得られた新規ペプチドワクチンと免疫チェックポイント阻害剤による複合免疫療法のin vivoでの治療実験を行う。まず、膠芽腫幹細胞マウスモデルを用いて、腫瘍抗原ペプチドワクチンを投与し、一定期間後にCTL 解析を行うことで、腫瘍抗原投与法の最適化を行う。次に、新規ペプチドワクチンと免疫チェックポイント 阻害剤(抗PD-1抗体、抗PD-L1 抗体など)併用投与後のCTL解析 、生存期間より、治療効果を検証する。 以上より、得られた結果をとりまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗により、本年度で必要とした消耗品費が予定よりも減少し、次年度への持ち越しとした。 <使用計画> 消耗品費:免疫染色に用いる抗体(FOXP3, PD-1, PD-L1など)の費用として計600,000円、膠芽腫幹細胞の培養に必要な培地、試薬(Neuro Basal Medium, B27, ヒトEGF, ヒトFGF, ヒトLIFなど)の費用として600,000円、スライドグラス、プラスチック・ガラス容器、保管培養に用いるフラスコなどに対して600,000円、動物実験として、C57BL/6マウスの購入、当研究室で飼育のために用いる餌や床として600,000円を使用する。 その他の経費:学会旅費・参加費として200,000円、更に最終年度であるため、論文発表経費として300,000円を使用する見込みである。
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