研究課題/領域番号 |
17K16675
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
張 成虎 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (80780551)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 変形性関節症 / NF-kBシグナル / VEGFR2 / メカニカルストレス |
研究実績の概要 |
OAの最も大きな原因は過剰な力学的負荷であるがそのメカニズムは解明されていない。申請者はこの課題に取り組むべく、細胞伸展負荷装置や独自に作成した3次元周期的静水圧負荷装置などを駆使してマウス初代軟骨細胞や関節軟骨器官培養に過剰な力学的負荷を与え、網羅的遺伝子発現解析から関節軟骨に対して破壊的に作用する分泌蛋白GREM1を同定した。申請者はマウス初代軟骨細胞にrecombinant humanGREM1(rhGREM1)を投与すると、Mmp13やAdamts5など軟骨基質分解酵素の発現が上昇し、軟骨同化作用のある遺伝子の発現が減少することを発見した。マウスの膝の支持組織を切除することによってOA を惹起するOA モデルの膝関節内にrhGREM1 を注射すると軟骨破壊が促進され、GREM1 を軟骨特異的に欠失させたCol2a1-creERT2;Grem1fl/flマウスのOA モデルで軟骨破壊は抑制された。また、GREM1の中和抗体を関節注射したところ軟骨破壊が抑制された。以上よりin vitro、in vivo 両者においてGREM1 は軟骨破壊作用を持った分泌蛋白であることが示された。さらにGREM1 は、VEGFR2を介してNFκB シグナルを活性化することが腎機能障害に発症機序の一つとして報告されているが、関節軟骨においてもGREM1 はVEGFR2を介してNFκB シグナルを活性化して軟骨を破壊すること、NFκB シグナルを抑制するとGREM1 の軟骨破壊が抑制されることが示唆されGREM1はOAに対する新規治療とターゲットとなることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「(1) OA、RA の手術サンプルを用いたGREM1 の発現解析」に関しては ヒトOA 患者の手術サンプルが入手しやすい臨床研究室である当研究室の利点を活かして人工関節置換術で得られる比較的健常な軟骨と変性の進んだ関節軟骨を組織免疫染色で比較したところ、変性の進んで破壊された関節軟骨でGREM1の発現が上昇していた。また、興味深いことに関節軟骨の深層と軟骨下骨にGREM1が多く発現していた。関節軟骨深層と軟骨下骨は過剰なメカニカルストレスを多く受ける部分であることが予想され、GREM1とメカニカルストレスの密接な関係が示唆された。 次に「(2) GREM1-VEGFR2-NF-κB シグナルを標的とした阻害剤の検討」に関してはGREM1-VEGFR2-NF-κB シグナルのターゲティングが OA、RA の治療手段となりうるかを検証するためにマウス 初代軟骨細胞、関節軟骨器官培養、を用いて実験を実施した。VEGFR2阻害薬とrecommbinant human GREM1を同時に投与したところ、recombinant human GREM1によって誘導される炎症性サイトカインが抑制された。NF-kBシグナルの代表的な阻害剤であるikk inhibitorを用いた実験でも同様にrecombinat human GREM1により惹起される炎症性サイトカインが強く抑制されていた。これらの結果はGREM1によるOA発症のターゲットとしてVEGFR2阻害剤、NF-kBシグナル阻害剤が有効であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトOAのみならず、RA 患者における手術サンプルを用いて関節液、関節軟骨、滑膜の検体を用いて、GREM1 やその関連分子の発現や活性をリアルタイムPCR、ELISA、免疫組織学的染色による解析を実施する。また、各疾患の重症度とGREM1 関連分子の発現の相関などを調べることにより、RA とGREM1の関連性も検証する。 また、GREM1-VEGFR2-NF-κB シグナルのターゲティングを検討するためにOAとRAのヒト手術サンプル用いて既存のGREM1中和抗体、VEGFR2アンタゴニスト・阻害剤・中和抗体、NF-κB シグナル阻害薬を投与したGREM1の抑制効果をEx vivoで検証する。またそれらの阻害剤が生体に及ぼしうる組織毒性などをEx vivoのレベルで十分に検討しin vivoの実験へ繋げる。ヒトOA、RA患者の軟骨や滑膜などのEx vivoの実験でGREM1-VEGFR2-NF-κBシグナルの破壊作用を抑えることができる有力な阻害剤については、半月板、靭帯の手術にて変形性関節症を誘導するマウス膝OAモデル、コラーゲン抗体誘導性関節炎モデル(RAモデル)を用いてその効果を生体レベルで検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 順調に研究が進んでいるため、必要以上に経費をかけずに済んだ (使用計画) 有力なGrem1-VEGFR2-NFkB阻害剤を用いたマウスOAモデル、RAモデルなどを解析していく費用など
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