研究課題
変形性関節症(OA)は我々が直面する高齢化社会で最も医療資源を費やすと予想される疾患のひとつで、要支援の状態になる原因の第一の疾患である。OAが過剰な力学的負荷と関わっていることは古くから知られているがそのメカニズムは解明されていない。申請者はこの課題に取り組むべく、細胞伸展負荷装置や独自に作成した3次元周期的静水圧負荷装置などを駆使してマウス初代軟骨細胞や関節軟骨器官培養に過剰な力学的負荷を与え、網羅的遺伝子発現解析から関節軟骨に対して破壊的に作用する分泌蛋白GREM1を同定した。申請者はマウス初代軟骨細胞にrecombinant humanGREM1(rhGREM1)を投与すると、Mmp13やAdamts5など軟骨基質分解酵素の発現が上昇し、軟骨同化作用のある遺伝子の発現が減少することを発見した。マウスの膝の支持組織を切除することによってOA を惹起するOA モデルの膝関節内にrhGREM1 を注射すると軟骨破壊が促進され、GREM1 を軟骨特異的に欠失させたCol2a1-creERT2;Grem1fl/flマウスのOA モデルで軟骨破壊は抑制された。また、GREM1の中和抗体を関節注射したところ軟骨破壊が抑制された。さらにGREM1 がVEGFR2-NFκB シグナルを介して関節軟骨に破壊的に働くことがin vistroの実験で明らかとなった。また、過剰な力学的負荷がRac1を誘導し活性酸素の酸性を介してNF-kBシグナルを活性化させGREM1を誘導することが証明されGREM1の上流シグナルのメカニズムを示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
「(1) OA、RA の手術サンプルを用いたGREM1 の発現解析」に関してはヒトOA 患者の手術サンプルが入手しやすい臨床研究室である当研究室の利点を活かして人工関節置換術で得られる比較的健常な軟骨と変性の進んだ関節軟骨を組織免疫染色で比較したところ、変性の進んで破壊された関節軟骨でGREM1の発現が上昇していた。また、興味深いことに関節軟骨の深層と軟骨下骨にGREM1が多く発現していた。関節軟骨深層と軟骨下骨は過剰なメカニカルストレスを多く受ける部分であることが予想され、GREM1とメカニカルストレスの密接な関係が示唆された。次に「(2) GREM1-VEGFR2-NF-κB シグナルを標的とした阻害剤の検討」に関してはGREM1-VEGFR2-NF-κB シグナルのターゲティングが OA、RA の治療手段となりうるかを検証するためにマウス 初代軟骨細胞、関節軟骨器官培養、を用いて実験を実施した。VEGFR2阻害薬とrecommbinant human GREM1を同時に投与したところ、recombinant human GREM1によって誘導される炎症性サイトカインが抑制された。NF-kBシグナルの代表的な阻害剤であるikk inhibitorを用いた実験でも同様にrecombinat human GREM1により惹起される炎症性サイトカインが強く抑制されていた。これらの結果はGREM1によるOA発症のターゲットとしてVEGFR2阻害剤、NF-kBシグナル阻害剤が有効であることが示唆された。「OA モデルマウス、RA モデルマウスを用いた in vivo での検討」に関しては、OAモデルマウスにGREM1の中和抗体を関節内注射するとOAの進行が抑制されることが確認された。現在全身投与を行い関節軟骨以外の重要臓器に及ぼす影響を検討中である。「GREM1をターゲットとした新規治療法の実用化に向けた低分子化合物、抗体の探索」についてはGREM1やVEGFR2の抗体が有望であると考え、マウスモノクローナル抗体を自作して作用の強いクローンを選別する予定である。
ヒトのOAサンプルを継続して収集するとともに、RA 患者における手術サンプルを用いて関節液、関節軟骨、滑膜の検体を用いて、GREM1 やその関連分子の発現や活性をリアルタイムPCR、ELISA、免疫組織学的染色による解析を実施を予定している。有望な阻害剤について、研究協力先である東京大学疾患生命工学センターの所有する低分子化合物ライブラリーを用いて類似作用が期待できる構造のものを選び、 さらにリード化合物作成へと繋げる予定である。具体的にミセルなどの核酸医薬の最新の知見を用いたDrug Delivery Systemも含め検討を行う。また、GREM1の上流シグナルである過剰な力学的負荷-Rac1のメカニズムについて更に研究を続けGREM1のカタボリックな作用を上流のシグナルで制御する方法も検討する予定である。
(理由)必要以上に経費をかけずに済んだ。(使用計画)モノクローナル抗体の作製、RAマウスモデルの解析など、次年度以降の経費のかさむ実験に使用する計画である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Nature Communications
巻: 10(1) ページ: 1442
10.1038/s41467-019-09491-5.