研究課題/領域番号 |
17K16712
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
田中 信帆 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 政策医療企画部, 研究員 (60530920)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 関節炎 / 変形性関節症 / 関節リウマチ / 滑膜病変 / エクソソーム |
研究実績の概要 |
変形性関節症(OA)では滑膜にも明らかな変化が生じるが、滑膜病変が生じる機序は明らかではない。疫学研究では滑膜病変とOAの進行が関連することが示されており、滑膜由来の因子が軟骨変性を直接あるいは間接的に誘導している可能性がある。しかし、滑膜病変と軟骨変性を結ぶ機序が実際にどのようなものなのかは不明である。本研究ではOAにおいて滑膜病変が生じるメカニズムと滑膜病変と軟骨変性の関連をエクソソームという比較的新しい生命現象をキーワードとして、対照滑膜や関節リウマチ(RA)との比較も含めて解明しようとするものである。本研究では人工関節置換術の際にOA症例とRA症例の膝関節から滑膜を採取し、それぞれの滑膜よりエクソソームを抽出したのちエクソソームに含まれるmiRNAについて比較解析を行う。その結果をもとにOA滑膜で発現が変化しているmiRNAを見出し、バイオインフォマティクスを活用して標的遺伝子を予測する。その結果と研究代表者の研究室で過去に解析済みであるOAおよびRA症例の滑膜組織のcDNAマイクロアレイデータを用いて遺伝子統合解析を行い、候補因子の絞り込みを行った後、多数例のOA滑膜よりmiRNAとmRNAを抽出し、定量PCRによる解析をおこなってmiRNAとmRNAの関連を検討することでOA滑膜におけるmiRNAと遺伝子発現の関連を検証する。解析をすべてヒトの検体を用いて行うことは本研究の特色であり、その成果から実際のOA関節において起こっている現象が直接的に示されると考えられる。また本研究は直接ヒトの検体を解析するものであるだけに、本研究の結果から滑膜病変や軟骨変性を抑止しうる治療法が直接的に導きだされることも期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の平成29年度には膝OA症例と膝RA症例、各32例より人工関節置換術の際に滑膜組織を採取し、これを用いた解析を行った。当初の計画では剖検例の病的所見のない膝関節からも滑膜組織を採取する予定であったが、剖検例からの検体採取に伴う倫理的な問題を年度内に解決できず、本年度は対照滑膜の採取は見送らざるを得なかった。剖検例からの検体採取については研究の第二年度においても引き続き解決を試みる予定であるが、上記の事情から研究初年度では対照組織を含めずに解析を行うことにせざるを得ず、膝OA症例と膝RA症例の2群間での比較検討のみを行った。 OA症例あるいはRA症例からの滑膜組織の採取の際は、採取した滑膜組織を採取直後に2つに等しく分け、一方の組織からはmRNAを抽出した。もう一方の組織はPBS中でホモジナイザーを用いて破砕することで組織に含まれるexosomeを回収し、さらにそこからmiRNAを抽出した。当初、研究初年度の後半にはマイクロアレイを用いたmiRNAの網羅的発現解析を行う予定であったが、予算的にアレイ解析は困難と判断されたため計画を修正し、マイクロアレイではなくPCRパネル(miScript miRNA PCR Array、Qiagen社)を用いた解析を行うこととした。PCRパネルを用いた解析では、解析されるmiRNAの数は限られるが、一度の解析で多数のmiRNAについて発現レベルの定量的なデータが得られる利点がある。研究初年度には予備検討を行って滑膜組織から上述の方法でエクソソームの回収、miRNAの抽出、および定量PCRによるmiRNAの定量が可能であることを確認している。研究第二年度となる平成30年度にはこのPCRパネルを用いて主要なmiRNAについて半網羅的な定量解析を行い、その結果からOA滑膜において発現が亢進あるいは低下するmiRNAを特定する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年目となる平成30年度には先に『現在までの進捗状況』の項で述べた遺伝子統合解析を行い、当初からの予定の通り絞り込まれたmiRNAと遺伝子について解析を進めていく。研究代表者の研究室では過去にOA滑膜とRA滑膜についてcDNAマイクロアレイにより遺伝子発現プロファイルを決定している。miRNAの半網羅的な解析によってOA滑膜で発現が亢進、あるいは低下している可能性が示されたmiRNAについて活用可能なmiRNAに関するデータベースを活用して標的遺伝子を調べ、その結果をcDNAマイクロアレイの解析結果と照らし合わせることによって、OA滑膜において遺伝子発現を制御しているmiRNAの候補(候補miRNA)を見いだす。候補miRNAが絞り込まれたら、多数例のOA滑膜とRA滑膜について滑膜組織からmiRNAとmRNAを抽出し、qPCRを用いて候補miRNAと標的遺伝子の間に本当に相関がみられるかを検証する。その結果から、候補miRNAが実際にOA滑膜において遺伝子発現を制御している可能性が確認された場合、軟骨の組織培養(器官培養)を行って候補miRNAがヒト軟骨組織中の軟骨細胞に対して基質分解を誘導するかの検証を行うことも検討する。この検討を行うのは、miRNAやnon-coding RNAについては機能が未知である可能性もあり、滑膜病変に関与するmiRNAが軟骨細胞の挙動に影響して軟骨変性に関与している可能性もあると考えるからである。なお、この実験では末期OA膝関節の非変性部から採取した軟骨組織を組織培養により維持し、LNA化されたオリゴRNAを用いることでin vivoに極めて近い状況で特定の遺伝子の発現解析を行っていく予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
今までに述べたように研究初年度では滑膜組織の収集と滑膜からのエクソソームの回収、miRNAの抽出と解析について基本的な実験手法について確認しただけであり、miRNAに関する本格的な解析は研究第二年度以降に予定される。このため研究第二年度にはエクソソームの回収に必要なExoQuick、miRNAの抽出に必要なキット、miRNAの半網羅的・定量的な解析に必要なPCRパネルの購入のために研究経費を必要とする予定である。研究第二年度にはまたmRNAの解析も行う予定であり、この解析のためのプライマー、mRNA抽出のためのキット、cDNA合成のためのキット、qPCR解析用試薬の購入のためにも研究経費を必要とする予定である。以上の解析結果より選び出された因子、non-coding RNAについて末期OA膝関節の非変性部から採取した軟骨組織を組織培養により維持し、LNA化されたオリゴRNAを用いた発現解析を行っていくためにも研究経費を必要とする予定である。
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