本研究はラットの末梢神経障害モデルに漢方薬を投与することで疼痛閾値の改善を確認し、脊髄での分子生物学的検討を行うことで末梢神経障害に対する漢方薬の有効性の検討を行うとともに、末梢神経障害に対する機序の解明を目的とする。最初は広く神経障害性疼痛の研究分野で用いられている絞扼性神経損傷モデルに漢方薬を投与し、Von Freyフィラメントによる疼痛閾値評価で、コントロール群と比較して漢方薬投与群で機械的閾値が有意に改善することを確認した。漢方薬は、抗癌剤による末梢神経障害をはじめ、様々な神経障害性疼痛に対して有用性が示されている牛車腎気丸を用いた。次に当初の予定では神経障害性疼痛モデルとして抗癌剤による末梢神経障害のモデルラットを用いる予定であったが、モデル作成が安定しないためHIV関連神経障害性疼痛モデルを用いることとした。HIV関連神経障害性疼痛モデルはラットの坐骨神経にHIV-1エンベロープ蛋白であるgp120を含む酸化再生セルロースの小片を巻き付けて作成した。ラットを無作為にHIV関連神経障害性疼痛モデル群、牛車腎気丸投与HIV関連神経障害性疼痛モデル群、偽手術群、牛車腎気丸投与偽手術群の4群に割り当て、牛車腎気丸投与HIV関連神経障害性疼痛モデル群、牛車腎気丸投与偽手術群には手術当日より牛車腎気丸の投与を行った。Von Freyフィラメントによる疼痛閾値評価では、HIV関連神経障害性疼痛モデル群と比較して牛車腎気丸投与HIV関連神経障害性疼痛モデル群で機械的閾値が有意に改善し、牛車腎気丸がHIV関連神経障害性疼痛に有効である可能性が示唆された。さらに現在、末梢神経障害に対し漢方薬が作用する機序について、脊髄における分子生物学的検討を行っている。
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