細胞移植治療の動物モデルとして、当初、神経障害性痛モデルとして一般的に使用されている絞扼性坐骨神経損傷モデルラット、脊髄神経結紮モデル、または坐骨神経部分結紮モデルを用いる予定であったが、モデルに使用される糸が神経損傷部位に残存することから、細胞移植治療を評価するには不十分なモデルであることが判明したため、より臨床に近い、神経損傷部位に異物が残らないモデルの作成を第一に行うこととした。そこで、坐骨神経に一定の圧力を加えることで神経障害痛を引き起こすモデルラットの作成に取り掛かった。条件検討の結果、von Frey testにおいてアロディニア、およびHargreaves testにおいて痛覚過敏を約1ヶ月間引き起こすモデルラットの作成に成功した。 次に上述の新たな神経障害性痛モデルラットについて、免疫組織学的に詳細に検討することとした。神経障害性痛の病態では、脊髄後角においてマイクログリアの増生が認められることが報告されている。そこで、坐骨神経が入力しているL5レベルの脊髄から凍結切片を作成し、マイクログリアのマーカーであるIba-1で染色しレーザ顕微鏡で観察したところ、障害側の脊髄後角においてIba-1の発現している面積の有意な増大が認められた。また、本モデル動物において軸索の障害があるかどうかを評価するため、axotomyのマーカーとして知られているATF-3で後角神経節を染色したところ、障害側にのみATF-3の発現が認められた。以上の結果から、本モデルでは神経障害性痛で見られるアロディニア、痛覚過敏、脊髄でのマイクログリアの増生、軸索障害が起こることが分かり、今後の実験に使用できるモデル動物を得られたと考えられる。 最後に細胞移植の治療効果を確認するため、ラットシュワン細胞を障害部位に移植したが、有為な治療効果は認められなかった。
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