近年、超音波装置の小型化・性能の向上により、伝達麻酔(以下、神経ブロック)の施行頻度が増加している。神経ブロックは嘔気や体動時痛の発生が少なく良質な術後鎮痛を提供できるメリットがある反面、局所麻酔薬の効果が切れてくると神経ブロックを行わなかった場合よりも痛みが強くなる「反跳痛」を引き起こす。この現象は、臨床レベルではよく知られているがその発生機序はわかっていない。申請者らは、これまでに神経切断や虚血による伝導遮断が脊髄での可塑性変化を誘発し、異常感覚を生じることを報告し、GroupⅡ代謝型グルタミン酸レセプター(mGluR)や一酸化窒素(NO)がその発症に関与していることを示した。これらのことから「神経ブロック後の反跳痛も伝導遮断により誘導されるmGluRやNOに依存した脊髄可塑性変化により引き起こされる」という仮説を立て検証を行った。 マウスの坐骨神経を露出し、0.375%ロピバカインを用いて坐骨神経ブロックを行った。行動学的実験で、ブロック効果が持続している時間では後肢逃避閾値の上昇が認められ、その後回復過程において一時的な閾値の低下を認めた。次に坐骨神経ブロック下に術後痛モデルマウスや骨折モデルを作成しShamマウスと後肢逃避閾値の変化の比較を行った。反跳痛が生じれば、回復過程の一時的な閾値の低下がモデルマウスの方が大きくなることが予想されたが、有意な差を得ることができなかった。そのほか、同様に坐骨神経ブロック下にCFAアジュバンドやカラゲニンを用いた炎症性疼痛モデルも作成したが、有意差を得ることができなかった。
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