本研究では、術後集中治療室(ICU)に入室した糖尿病(DM)患者および非DM患者から術前後に採取した末梢血を用いて、α2アドレナリン受容体作動薬デクスメデトミジンと静脈麻酔薬プロポフォールが血小板活性化マーカーとして知られるP-セレクチン(PS)発現に及ぼす作用をフローサイトメトリーにより解析し、糖尿病患者血小板に対する鎮静薬/麻酔薬の影響を調べた。 倫理委員会より承認を得た。術前に書面により同意を取得し、大侵襲手術後、ICU入室したDM患者および非DM患者を対象とした。 結果、非DM患者において、デクスメデトミジンによりPS発現は亢進したが、術前後間に有意差は認めなかった。また、低濃度プロポフォールは術前後ともPS発現は亢進し、高濃度プロポフォールは術前のみ抑制されたが、術後は抑制されなかった。DM患者において、デクスメデトミジン、プロポフォールの術前術後いずれの濃度において、PS発現は非DM群よりも高い値を示した。非DM患者と同様にデクスメデトミジンにより濃度依存性にPS発現は亢進したが、術後が有意に高くなった。また、プロポフォールは非DM群と同様に低濃度では術前後ともPS発現は亢進し、高濃度では術前のみ抑制されたが、術後は抑制されなかった。 今回の結果はDM患者血小板のα2アドレナリン受容体数/感受性が手術侵襲により亢進していることを示唆している。またDMがプロポフォールの作用するトロンボキサンA2受容体経路やシクロオキシゲナーゼ活性に影響しないことを示唆している。 DM患者の血小板に特徴的な機能亢進したα2アドレナリン受容体と麻酔薬の関係性、手術侵襲と麻酔薬の血小板PSへの影響については従来報告がなく、本研究によって周術期に血小板PS発現レベルを解析することの意義が初めて示された。これらの成果により、周術期管理における血小板機能変化の意義がさらに明らかになり、より最適な糖尿病患者の周術期管理方法の開発応用が期待される。
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