研究課題/領域番号 |
17K16747
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
加藤 秀哉 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員講師 (30515284)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肺炎 / 多剤耐性菌 / 免疫・抗体療法 |
研究実績の概要 |
日本の主な死因別死亡統計において、肺炎が脳血管疾患を抜いて第3位を占めるように至った。この背景には、高齢化社会や医療の高度化に基づく免疫不全患者 の増加、抗菌薬の汎用による多剤耐性菌蔓延が深く関わっている。これら肺炎の主な起炎菌には、緑膿菌に代表されるグラム陰性桿菌やMRSA(メチシリン耐性黄 色ブドウ球菌)などが含まれる。そこで、新たな方法で病原性細菌に対抗して免疫力を高める予防法や、従来の抗菌薬には頼らない方法で病原性のメカニズムに 対抗できる新しい治療法の開発が強く求められている。申請者らは、グラム陰性菌の起炎菌として最も頻度の高い緑膿菌性に対する免疫療法を検討してきた。こ れまでの研究で、細菌感染症に対して現在臨床で唯一使用可能な抗体製剤である市販ガンマグロブリン製剤には、緑膿菌性肺傷害に対して保護効果があることを 見出した。一方で、近年の分子細菌学の研究により、多くの病原性グラム陰性桿菌は、III型分泌システムと呼ばれる相同性の高いメカニズムを用いて、その病原 性を発揮していることが明らかにされてきた。そして、市販ガンマグロブリン製剤における肺傷害改善のメカニズムとして、緑膿菌の主要な病原毒性であるIII型 分泌システムの阻害に加えて、緑膿菌の未同定の表面抗原に対する抗体分画が関与していることが解った 。今回、これら免疫に関与する表面抗原タンパクの中 から、ガンマグロブリンの抗肺傷害作用に関与する表面抗原タンパクを同定し、それをもとに新しい免疫療法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の大枠としては以下を計画していた。 ・緑膿菌PA103株中の表面抗原タンパクの解析をMS-IT-TOF(液体クロマトグラフィ質量分析計)を用いて行う。・抗原タンパク遺伝子のクローニング、遺伝子組み 換えタンパクの作成を行い、それをもとに抗体を作成し動物実験にて効果を検証する。その中で平成29年度の当初の目的として 1. 緑膿菌表面抗原の抽出 2. 緑膿菌表面抗原に対する市販ガンマグロブリン製剤の免疫ブロット 3. LCMS-IT-TOF(液体クロマトグラフィ質量分析計)を用いた 表面抗原タンパクの解析 4. 抗原タンパクのクローニング、遺伝子組み換えタンパクの作成 5. 各種抗体の作成 を計画していたが、上記プロジェクトに関し て概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、抽出した抗体を用いて動物モデルでの検討を行う予定である。具体的な実験は以下のプロトコールを計画している。 緑膿菌PA103株を用いてマウス急性肺傷害モデルを作成する。マウスに対して吸入麻酔薬を用いて全身麻酔下で致死量の緑膿菌を気管内に投与する。表面抗原 に対する抗体の投与:上記方法での緑膿菌投与前もしくは投与後に表面抗原に対する抗体を静脈内投与する。またガンマグロブリン製剤に対して表面抗原に対す るアフィニティカラムを作成し、表面抗原に対する抗体を除去した製剤で効果が減弱するか検討する。また、表面抗原タンパクからワクチンを作製し、予防効果 を確認する。これらの効果判定として、肺胞構造の解析を中心に免疫組織学的、生理学的検討を加える。具体的には、緑膿菌投与後24時間までの体温・生存率を 測定し、24時間の時点で肺の浮腫の程度の定量評価を行う。また肺内・血中細菌数、各種サイトカイン、MPO(ミエロペルオキシダーゼ)活性等炎症パラメータも 併せて測定する。最後に、肺の組織図を記録し比較する。また既に効果が得られている抗PcrV抗体との併用療法についても検討を行いその効果を確認していく。 さらに緑膿菌の病原毒性をブロックできる特異抗体濃度を高めたガンマグロブリン製剤を精製して臨床応用が可能となるよう開発を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たな実験器具を購入するために上記費用が発生した。
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