疼痛や情動に関わる生理活性アミンであるセロトニンのトランスポーター(5-HTT)は神経終末に発現し、 シナプス間隙からのセロトニン再取り込みを行うことでシナプス伝達に影響する。本研究では慢性痛、術後痛との関連性を評価している。前年度までは、肺癌術後の急性痛から開胸術後症候群として慢性化していく経過と5-HTTLPRの多型性に関連性は見いだせなかったと報告した。最終年度の研究では、セロトニントランスポーター遺伝子多型が帯状疱疹後神経痛患者の痛みの性質、強度と生活の質に及ぼす影響を観察した。予備研究として、通院中の帯状疱疹後神経痛患者のうち、十分なインフォームドコンセントの上、同意が得られた者38名を対象とした。5-HTTLPR遺伝子多型測定のため頬部からDNA試料を採取し、また、現時点での痛みスコア、痛みの質、生活への影響に関して問診を行い、5-HTTLPR遺伝子多型(L型、S型)との関係を解析した。38名のうち、LL型は2名、LS型は14名、SS型は22名であった。仮説としてSS型が有意に疼痛スコアが高値となることを想定したが、平均NRSスコアは5/10で、LL/LS型とSS型に統計学的な有意な差は認められなかった。また、痛みの破局化スコア、Short-Form McGill Pain Questionnaire 2スコアにも有意な差は認められなかった。疼痛強度には遺伝以外の様々な要因が関与していると考えられ、遺伝的要因についてもセロトニントランスポーター多型以外の原因遺伝子が複数関与していると考えられる。本予備研究の結果から、帯状疱疹関連痛への遺伝的要因を解析するためには原因遺伝子候補の再考を行う必要がある。
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