研究課題/領域番号 |
17K16751
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
西和田 忠 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20649165)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モルヒネ / 細胞増殖 / NF-κB / VEGF / HSC-3 |
研究実績の概要 |
全身麻酔薬やオピオイドが癌再発リスクに与える影響や癌細胞への直接作用についていくつか報告されているが、数日に及ぶ長時間曝露の影響についてはほとんど報告がない。本研究では、扁平上皮癌への麻酔関連薬剤の長時間曝露が癌細胞の増殖能やアポトーシスに どのような影響を与えるかを検討する。 2017年度に行った研究で、モルヒネが口腔癌細胞HSC-3に対し0-1000μMにおいて容量依存性にviabilityを低下、さらに細胞傷害を惹起することを明らかにした。また、フローサイトメトリーを用いてアポトーシスを調査し、1000μMでアポトーシスが有意に増加、BrdUを用いた細胞増殖能の研究でも1000μMで有意に細胞増殖能が低下していることを確認した。 2018年度はまず、コロニー形成法を用い、より長期間の観察(10日間)を行った。その結果、0-1000μMにおいて容量依存性にコロニー形成数が減少した。さらにこれらのメカニズムを検証するために、フローサイトメトリーを用いて、モルヒネによるHSC-3細胞のNF-κBの発現への影響を調査した。その結果、癌細胞は元来NF-κBが強く発現しているが、モルヒネ100μMおよび1000μMの曝露によって、発現している細胞の割合が低下していることが明らかになった。また、フローサイトメトリーを用いてアポトーシスに関連するcaspase 3を発現している細胞を調査し、モルヒネ1000μMで明らかに増加していることがわかった。さらに癌細胞の増殖に強く影響し、NF-κBとも関連している血管内皮増殖因子VEGFに対するモルヒネの影響をELISAで調査した。その結果、モルヒネ0-1000μMの暴露によって容量依存性にHSC-3細胞が産生するVEGFが低下することを明らかにした。本結果をJournal of anesthesiaに投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りとはいかなかったが、モルヒネが口腔癌細胞の増殖能に与える影響およびそのメカニズムについて一定の成果を得られている。
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今後の研究の推進方策 |
他の全身麻酔薬についても、癌細胞に対する影響について調査する予定である。特に揮発性麻酔薬であるセボフルランは、その暴露によって細胞増殖能が増加するという報告もあれば低下するという報告もある。セボフルランは最も一般的に用いられる全身麻酔薬の1つであり、その影響を調査する意義は大きい。セボフルランで良い結果が得られなかった場合、全身麻酔で用いられる他の薬剤(フェンタニル等)の癌細胞に対する影響を調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初モルヒネ・プロポフォール・ミダゾラム・デクスメデトミジン等を用いて口腔癌細胞に対する放射線感受性の変化を調査する予定であったが、モルヒネそのものが口腔癌細胞に影響を与えることが明らかとなり、放射線を用いた研究を施行する必要がなくなったため次年度使用額が生じた。平成31年度にセボフルラン等の麻酔薬の口腔癌細胞に対する影響を調査する予定であるため、そのために使用する。
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