【背景】脳は虚血・低酸素後の再灌流障害により細胞死に至る。セボフルランは臓器保護作用のあるプレコンディショニング効果を持ちその作用機序としてATP感受性Kチャネルが重要な役割を担うとされている。マウス脳スライスを用いて再灌流障害の一因である低酸素誘導性の興奮性シナプス後電位増大に対するセボフルランのKATPチャネルを介した効果を検討した。またニューロンはエネルギー枯渇時、グリアから供給された乳酸をエネルギー源として使用するため、乳酸の細胞膜電位やEPSPへの影響も併せて検討した。 【方法】B6Jマウス脳スライスを作製しホールセルパッチクランプ法を用いて線条体 MS neuronから細胞膜電位やEPSPを計測した。酸素グルコース欠乏環境はスクロース外液に窒素を併用し作製した。KATPチャネル阻害薬としてグリベンクラミド、乳酸輸送体であるモノカルボン酸トランスポーターの阻害薬として4CINを使用した。 【結果】酸素グルコース欠乏後、セボフルラン非投与群ではEPSPが増大した。一方、セボフルラン投与群では非投与群と比較しEPSP増大が有意に抑制された。セボフルラン群にグリベンクラミドを投与するとその効果は消失した。4CIN群では酸素およびグルコースの存在下においてEPSPを増大させたが、セボフルランはその増大を抑制せず、NMDA受容体阻害薬の投与により抑制をみとめた。 【結論】セボフルランは低酸素誘導性EPSP増大を抑制しグリベンクラミドはその作用を消失させた。セボフルランはKATPチャネルを介した脳保護効果を持つ可能性がある。セボフルランが4CIN群において酸素・グルコース存在下でもEPSP増大を抑制しなかったことからセボフルランの効果にモノカルボン酸トランスポーターの関与が考えられ、4CIN群におけるEPSP増大にはNMDA受容体の関与が示唆された。
|