研究課題/領域番号 |
17K16758
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
丸山 基世 日本医科大学, 医学部, 助教 (60709757)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 疼痛関連lncRNA / 選択的スプライシング / RNA結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
神経害性疼痛は体性感覚系の障害に起因する難治性の慢性疼痛であり、既存の鎮痛薬の効果は十分でなく、鎮痛薬の副作用も治療の妨げとなっている。既知のメカニズムに基づいた治療候補は未だヒトにおける有効性を見出せておらず、新たな視点から疼痛の病態分子機構を解明する必要がある。 近年、選択的スプライシングの調節異常が多くの疾患で報告されてきており、重要な治療標的の候補になりうるが、神経障害性疼痛に対する関与はほとんど明らかになっていない。この背景には選択的スプライシングの複雑な調節機構や効率的な解析手段の欠如が病態分子基盤の理解を妨げていると考えられる。 タンパク質をコードしない機能性RNAとして細胞内に豊富に発現する非コードRNAの中でも長鎖非コードRNA(lncRNA)は半数以上が神経系に発現しており、神経機能における重要性が示唆されているにも関わらず神経障害性疼痛における役割はほとんど明らかになっていない。我々は神経障害性疼痛において選択的スプライシング異常が広範に生じていること及びその主要調節因子であるlncRNAが神経障害性疼痛に関与していることを見出した。 従って、本研究ではlncRNAの解析を通して、神経障害性疼痛における選択的スプライシング異常を解析することを目的とした。すでに選択的スプライシングの制御因子であることが報告されているlncRNAを足掛かりとし、これらlncRNAが調節するスプライシング調節タンパク質及び選択的スプライシングが変化する遺伝子を同定し、新規の治療標的としての可能性を検討した。本年度は一次感覚神経において、疼痛に寄与するlncRNAに対して特異的に結合するスプライシング制御タンパク質の詳細な解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はRNAシーケンスにより、ラットの一次感覚神経の核内において選択的スプライシングの調節因子の1つである特定のlncRNAが高発現し、神経傷害に伴って有意に発現増加することを見出した。アデノ随伴ウイルスベクターを用いたlncRNA に対するshort-hairpin RNAの遺伝子導入による一次感覚神経特異的なlncRNAの発現抑制は、神経傷害後の疼痛を減弱させ、数多くの遺伝子発現変化を抑制した。 一次感覚神経において疼痛に寄与するlncRNAに特異的に結合するスプライシング調節タンパク質をRNAプルダウン法により抽出し、マススペクトロメトリーにより同定した。数多くのRNA結合タンパクが同定され、選択的スプライシングに必須なタンパクが含まれていた。lncRNA結合タンパク質の一次感覚神経における発現分布を免疫染色により確認した。大半のタンパク質が一次感覚神経の核に局在していたが、いくつかは核と細胞質の両方に発現していた。従って、lncRNAは一次感覚神経において様々なタンパク質との結合を介して遺伝子発現変化を調節することによって、神経障害性疼痛に寄与する可能性が示唆された。疼痛関連lncRNAに結合するタンパク質の基礎的な解析が終了したためおおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
疼痛に寄与するlncRNAに結合するスプライシング調節タンパク質の発現操作により神経障害性疼痛に対する関与を検討する。アデノ随伴ウイルスベクターを用いて一次感覚神経特異的に強制発現または発現抑制することにより疼痛行動を評価する。我々は末梢神経障害に伴って細胞内局在が変化するスプライシング調節タンパク質を見出しているため先行して進める。また、一次感覚神経におけるlncRNAの強制発現に対するスプライシング調節タンパク質の発現解析も並行して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ラットを購入する予定だったが、実験が延期になった。4月の動物実験に使用する。
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