神経害性疼痛は体性感覚系の障害に起因する難治性の慢性疼痛であり、既存の鎮痛薬の効果は十分でなく、鎮痛薬の副作用も治療の妨げとなっている。既知のメカニズムに基づいた治療候補は未だヒトにおける有効性を見出せておらず、新たな視点から疼痛の病態分子機構を解明する必要がある。 近年、選択的スプライシングの調節異常が多くの疾患で報告されてきており、重要な治療標的の候補になりうるが、神経障害性疼痛に対する関与はほとんど分かっていない。 タンパク質をコードしない機能性RNAとして細胞内に豊富に発現する非コードRNAの中でも長鎖非コードRNA(lncRNA)は半数以上が神経系に発現しており、神経機能における重要性が示唆されているにも関わらず神経障害性疼痛における役割はほとんど明らかになっていない。我々は神経障害性疼痛において選択的スプライシング異常が広範に生じていること及びその主要調節因子であるlncRNAが神経障害性疼痛に関与していることを見出した。従って、本研究ではlncRNAの解析を通して、神経障害性疼痛における選択的スプライシング異常を解析することを目的とした。 神経障害性疼痛モデル動物の一次感覚神経において、スプライシング制御因子であるlncRNAの遺伝子発現操作を行うことにより、lncRNAの疼痛に対する関与を明らかにした。また、lncRNAに対して特異的に結合するスプライシング制御タンパク質を数多く同定した。本年度は、これらタンパク質の一次感覚神経における細胞内局在を詳細に解析し、特に神経障害に伴い細胞内局在が劇的に変化したタンパク質を同定した。lncRNAがこれらスプライシング制御タンパク質の細胞内局在を調節することで疼痛に寄与する可能性が示唆された。痛みに寄与するスプライシング調節タンパク質の標的となる遺伝子を同定し、治療標的とすることは、新たな疼痛治療に繋がることが期待される。
|