オキシトシンは抗うつ作用、ストレス応答制御ならびに鎮痛作用などを併せ持つことから、トータルペインを緩和する新しい治療薬候補として期待されている。 近年、オキシトシンがドパミン神経系を直接制御することが報告されたことから、本課題では、オキシトシン投与によるドパミン神経系の変化について検討し、 オキシトシンの詳細な分子機序を探ると共にがん性疼痛治療薬としての可能性を探索した。オキシトシンの点鼻投与により、マイクロダイアリシスを用いた側坐核のドパミン遊離量の変化および神経障害性疼痛モデルにおける鎮痛効果の有無の評価を行ったところ、オキシトシン 100ng の点鼻投与により、側坐核ドパミン遊離量の 30% の増加および神経障害性疼痛の 52% の改善が得られたため、オキシトシン 100ng 点鼻投与における薬理効果発現機構を明らかにするために、中脳辺縁ドパミン神経の賦活化機構に焦点を当て、腹側被蓋野における各種遺伝子発現解析を行った。その結果、ドパミン生合成律速酵素であるチロシン水酸化酵素 (TH) およびオキシトシン受容体の発現は、オキシトシン点鼻投与により変化しなかった。このことから、オキシトシン点鼻投与によるドパミン遊離量の増加や鎮痛効果の発揮は、ドパミン神経の形態学的変化や細胞内遺伝子発現変動によって引き起こされるのではなく、ドパミン神経内で誘導されるオキシトシン受容体下流シグナルの活性化などの細胞活性調節変化によって引き起こされる可能性が示唆された。
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