研究課題/領域番号 |
17K16765
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
吉田 敬之 関西医科大学, 医学部, 助教 (30634852)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 拡張現実 / augmented reality / 区域麻酔 / 硬膜外麻酔 / 神経ブロック / 超音波ガイド / ナビゲーション |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は、現実空間の人体に脊椎などの骨構造を正確に投影し、それをガイドにして骨構造近傍に存在する神経の近くに正確かつ安全に針を進めて、硬膜外ブロックなどの区域麻酔手技を行うことであった。一方で、皮膚表面から投影物までの距離に実際とは異なる物理的誤差が生じれば、この技術を臨床に応用して患者に実用するには、特に安全の面において、問題がある。このため、平成29年度の研究計画では拡張現実(AR)によって投影した像と実物体とを正確に重ね合わせることを第一の達成すべき目標としてきた。 研究責任者のグループは、すでにマーカー型ビジョンベースを基本とした簡素なAR画像表出法に成功しており、これを基盤システムとしてその精度を高めるための試験を繰り返し行ってきた。しかし、実際に人体にAR画像を投影させた場合、体動などに起因する投影像と現実構造とのズレが存在し、現段階では1 mm単位での操作が要求される区域麻酔手技の安全性を十分に担保できるとは言い難いことがわかった。 そこで、われわれは発想を転換し、ARを用いて人体に投影された骨構造のみをガイドに区域麻酔手技を実行するのではなく、超音波ガイド下で行う区域麻酔手技中の針の動きや、針と超音波プローブとの位置関係を、ARを用いて超音波画像とともに表示する方法を開発していく方針とした。具体的には、OpenGL(グラフィックスライブラリ)とARtoolkit(AR開発環境)の組み合わせを用いて、患者皮膚、超音波プローブ、穿刺針の位置関係を三次元的に認識可能なシステムを構築する予定である。超音波ガイドを併用することで、骨構造のみに頼るのではなく、針が目標物(神経)あるいは危険な構造物(血管など)と接近する部分も可視化できると考えている。平成29年度中に研究協力施設(和歌山大学システム工学部)と研究方針について協議し、前述の方針を決定済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、当初は平成29年度の研究達成目標として、拡張現実(AR)によって投影した像と実物体とを正確に重ね合わせることを第一の達成すべき目標としてきた。しかし、現段階では、1 mm単位での操作が要求される区域麻酔手技の安全性を十分に担保できるほど正確に投影像と実物体を重ね合わせることは、体動などの要素のために難しいことがわかった。 そこで、われわれは発想を転換し、ARを用いて人体に投影された骨構造のみをガイドに区域麻酔手技を実行するのではなく、超音波ガイド下で行う区域麻酔手技中の針の動きや、針と超音波プローブとの位置関係を、ARを用いて超音波画像とともに表示する方法を開発していく方針とした。超音波ガイドを併用することで、骨構造のみに頼るのではなく、針が目標物(神経)あるいは危険な構造物(血管など)と接近するところも可視化できる。理論的には、仮に被験者に体動があったとしても、超音波プローブと針との位置関係は継続してARで可視化でき、さらに人体内構造物と針との接触は超音波画像上で確認できるため、安全性を担保できると考えている。平成29年度中に研究協力施設(和歌山大学システム工学部)と上記の問題点について協議し、方針転換を決定した。そのため、進捗にやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
ARシステムを用いた超音波ガイド下手技中のニードルナビゲーションシステム(以下、本システム)の構築を急ぐ。超音波ガイド下穿刺練習用シミュレータを用いて、本システムの精度向上を進めていく。本システムの正確性を客観的に評価するため、本システムのAR画像を見ながら穿刺手技を行った際に、術者が正確に針を到達目標点に誘導できることを明らかにする。その上で、臨床使用のための予備的実験を行う。具体的には、ますは穿刺手技の経験を持たない医学部学生ボランティアが、本システムと穿刺シミュレータを用いて、正確に超音波ガイド下穿刺を行えるかどうかを検証する。比較対照群として本システムを用いずに超音波ガイド下で針を穿刺する群を設定し、得られた結果からAR 技術を用いた本システムの有効性を実証する。穿刺シミュレータで本システムが十分な信頼性を備えて機能することを確認できたら、倫理委員会での承認を得たのちに、ボランティアまたは実際の患者に対して本システムを用いて超音波ガイド下穿刺を行うことを最終目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度中の研究進捗が遅れたことに伴い、当初平成29年度中に執行を予定していた物品費などの支出が保留され、次年度使用額が生じた。研究の進捗に応じて、この次年度使用額と平成30年度分として請求した助成金を、必要な物品の購入に充てる予定である。
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