われわれは、平成30年度の計画から、超音波ガイド下で行う区域麻酔手技中の針の動きや、針と超音波プローブとの位置関係を、拡張現実(augmented reality; AR)技術を用いて、超音波画像とともに表示する方法を開発していく方針とした。具体的には、OpenGL(グラフィックスライブラリ)とARtoolkit(AR開発環境)の組み合わせを使用して、患者の皮膚、超音波プローブ、穿刺針の位置関係を三次元的に認識可能なシステムを構築することを目標とした。超音波ガイドを区域麻酔手技に用いることで、目標となる人体内部の軟部組織構造や骨構造および穿刺針を可視化することができる。しかし、超音波プローブから発せられる超音波ビーム上に穿刺針を正しく導くことができなければ、合併症発生の原因となる穿刺針先端の位置を確認できないので、手技の安全性を担保できない。研究協力施設(和歌山大学システム工学部)と研究方針について協議し、超音波プローブと穿刺針にビジョンベースAR用マーカーを装着して、超音波プローブのビーム発生部位と穿刺針の位置関係をリアルタイムにサブモニタ上またはヘッドマウントディスプレイ上に表示するシステムの開発を、平成30年度から引き続いて31年度も行った。既存のAPIを応用することで、基本的なシステム自体は比較的容易に構築できたが、画像上にて示される針位置と実際の針位置との間の誤差が1 cm程度生じた。超音波ガイド下手技において、1 cmの誤差は安全範囲内とは言えず、誤差の低減を目指したが満足のいく改善が得られず、システムの実用性を評価する段階に移ることはできなかった。誤差の問題のほかに、超音波プローブと穿刺針に装着するAR用マーカーのさらなる小型化を達成しないと、臨床応用時の操作性に問題が生じるであろうこともわかった。
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