前立腺がんは本邦で2015 年に部位別罹患率が1位となり、今後さらに増加すると考えられる。過剰治療が問題となっており、前立腺がん鑑別だけでなく悪性度を正確に反映するバイオマーカーの必要性が高まっている。近年、尿中の糖転移酵素の発現検出やレクチン-抗体法による血清PSA のがん性糖鎖変異の特異的検出法が前立腺がんの鑑別および悪性度評価に寄与する可能性が示されている。本研究では、糖転移酵素GCNT1 と疾患特異的な組み換えレクチンをプリントしたハイブリッドアレイパネルを樹立し、前立腺がんの鑑別と悪性度を同時評価可能な新たなバイオマーカーとなりうるかを検証することを目的とする。平成29年度の研究から前立腺圧出尿中のPSA糖鎖変異を組み換えレクチンアレイで検出することが可能となり、前立腺癌診断およびの悪性度評価に有用なレクチンの組み合わせを発見した。平成30年度および令和元年度は、さらに解析する臨床検体数(合計212例)を増やし前立腺癌の鑑別および悪性度評価に関するROC解析を行った。その結果、前立腺圧出尿中においてGalα1-3/4Gal糖鎖を認識するPA-I-Lレクチンに反応性を有する糖鎖変異PSAが前立腺癌患者で有意に減少し、AUCが0.8131と既存PSA検査よりも診断精度が有意に高い結果であった。これらの研究成果から、前立腺圧出尿中の糖鎖変異PSA のレクチンアレイによる検出系は、前立腺癌の診断に寄与するバイオマーカーとなり得ることが示唆された。今後日本、欧州、および米国の各泌尿器科学会で発表を検討している。
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