近年、細胞外小胞extracellular vesicles (EVs)が、細胞間コミュニケーションツールとして、生体内の様々な微小環境形成に関与することが知られている。癌細胞由来のEVs も癌転移のための微小環境形成に関わることが報告されているが、その機能・役割には、依然、未解明な点が多い。本研究では、癌の血行性転移の鍵となる癌細胞の血管外脱出過程に焦点を絞り、癌細胞由来EVsがこの過程で果たす役割を明らかにすることを目的としている。平成29年度および平成30年度の研究から、EVsの分泌に関与するtsg101遺伝子をshRNAでノックダウンし、EV分泌抑制細胞株を作成し、このtsg101ノックダウン細胞における血管透過性は亢進しないことが明らかとなった。さらに、tsg101ノックダウン細胞の血管脱出過程を検証する上で、マウス肺への転移能を検証すると、親株は肺への転移が認められたのに対し、tsg101ノックダウン細胞は、肺へ転移しないことが明らかとなった。令和元年は、E V添加により変動する血管内皮細胞のmRNAのマイクロアレイ解析を行った。その結果、EVを添加すると、血管内皮細胞のVinexinの発現が低下していることが明らかとなった。Vinexinは、他の細胞骨格分子と結合し、細胞骨格の再構築に関与するタンパク質であることから、EV添加により、血管内皮細胞内の細胞骨格の再編成が起こった結果、血管透過性が亢進したものと考えられる。これらの研究成果をもとに、EV中血管透過性に関与する因子を同定することを検討している。
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