研究実績の概要 |
筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)において、膀胱内再発は臨床上の大きな問題である。我々は、膀胱内視鏡検査時の腫瘍病変の見落とし低減を目指し、人工知能(AI)を利用した診断支援システムの研究を行ってきた。 まずは、従来の白色光の膀胱内視鏡画像(正常:1671枚、腫瘍病変:431枚)において、腫瘍病変の画像識別方法を深層学習に基づいた転移学習において確立した。 続いて、膀胱内視鏡画像の学習の前段階に胃内視鏡画像(正常:6,943枚, ピロリ菌感染胃炎:1,785枚)を追加した臓器間転移学習を利用した解析において、診断精度の向上を確認した。 さらに、膀胱癌を見やすくする技術である狭帯域光観察(NBI)画像(正常:536枚、腫瘍:151枚)にも適用した検証を行った。段階的ではなく並列に複数ドメインのデータを学習する混合ドメイン学習の検証も行っている。白色光の膀胱内視鏡画像、NBIの膀胱内視鏡画像、胃内視鏡画像の合計3つのドメインを用いた混合ドメイン学習を行い、NBIの画像を学習に加えることにより、システム全体の診断精度の向上を確認した。 また、開発したAIの実力が実際の泌尿器科医と比較してどれほどであるかの評価も行った。AIの診断精度を測定した際にテストデータして使用した膀胱内視鏡画像422枚(腫瘍を含まない:335枚、腫瘍を含む:87枚)を連続で観察する専用ソフトを作成し、経験の異なる医師と医学生に診断させたところ、AIは泌尿器科専門医レベルに達していることが確認された。学習時間は10分、診断時間は5秒と圧倒的にAIが優位だった。 AIには医師の診断レベルを客観的に評価できる可能性も示された。医師の習熟度に合わせたアドバイスが可能となれば、膀胱内視鏡検査における効率のよい観察と診断のレベル向上が見込まれる。AIがNMIBCの診療において極めて有用なツールになる可能性が示された。
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