研究課題/領域番号 |
17K16778
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
岡東 篤 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (90756719)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
近年、血管新生受容体や増殖シグナル受容体を標的とした分子標的治療薬が開発され、進行腎細胞癌症例に対して、1st lineまたは2nd lineの治療として一定の治療効果を上げており、腎細胞癌の切除不能進行症例や、遠隔転移を認める症例に対する治療の選択肢が増えている。しかしながら、分子標的薬の治療経過中に、腎細胞癌は治療抵抗性を獲得することが多い。治療抵抗性を獲得した腎細胞癌に対する有効な治療法は皆無であり、患者の予後は極めて不良である。本疾患の制御には、治療抵抗性を獲得した腎細胞癌における機能性RNAネットワークを探索し、治療抵抗性に関与する分子経路を遮断する戦略が不可欠であると考える。この様な背景の基、我々は、分子標的治療薬(スニチニブ)治療後の剖検検体から、「治療抵抗性腎細胞癌マイクロRNA発現プロファイル」を作成し、癌組織で発現が抑制されているマイクロRNA(癌抑制型マイクロRNA)および癌組織で発現が亢進しているマイクロRNA(癌促進型マイクロRNA)の探索を行った。発現が抑制されているマイクロRNAから、miR-149-5p、miR-149-3p、miR-10a-5p、miR-451aに着目し、これらマイクロRNAの機能解析を施行した。その結果、これらのマイクロRNAを腎細胞癌に核酸導入する事により、癌細胞の遊走能、浸潤能を顕著に抑制した。更に、これらマイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索した結果、癌の転移に関与する遺伝子を同定した。これらのマイクロRNAが標的とする遺伝子はTCGA(the cancer genome atlas)のデータベースから腎細胞癌において予後不良因子であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子標的治療薬(スニチニブ)治療後の剖検検体から、「治療抵抗性腎細胞癌マイクロRNA発現プロファイル」を作成した。このプロファイルに基づき、癌抑制型マイクロRNAの探索に成功している。更に、マイクロRNAが制御する分子ネットワークの探索を行い、腎細胞癌における癌促進型遺伝子を見出した。 (miR-10a-5pの機能解析) 腎細胞癌・マイクロRNA発現プロファイルより、癌組織で発現が抑制されている、miR-10a-5pに着目し、癌抑制機能と、これらマイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索した。miR-10a-5pの発現と臨床病理学的な解析を行った結果、マイクロRNAの発現が低い患者群では、発現が高い患者群と比較して、有意に予後が悪いことが明らかになった(P = 0.009)。腎細胞癌細胞株にマイクロRNAを導入する事により、癌細胞の遊走能、浸潤能を抑制した事から、これらマイクロRNAは、癌抑制型マイクロRNAであることを証明した。更に、これらマイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索した結果、有糸分裂の間、紡錘体微小管と動原体の間に局在し、その付着を安定化させることで適切な染色体分離を誘導する働きを有するSKA1を抑制することを明らかにした。データベース解析では腎癌においてSKA1の高発現が予後不良であることが確認された。 (miR-149-5p、miR-149-3pの機能解析) 同様にmiR-149-5p、miR-149-3pに着目し、腎細胞癌において癌抑制型マイクロRNAであることを証明し、それらの制御する遺伝子としてFOXM1を同定した。FOXM1は転写因子として機能し、細胞の増殖能に関与しており、様々な癌種において発現が亢進していることが報告されている、腎癌においてもデータベース解析によってFOXM1の高発現が予後不良であることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
(今後の推進方策)これまでに、RNA-sequence により、腎細胞癌・マイクロRNA発現プロファイルを作成し、癌組織で発現が抑制されているマイクロRNA(癌抑制型マイクロRNA)および癌組織で発現が亢進しているマイクロRNA(癌促進型マイクロRNA)の探索を行った。発現が抑制されているマイクロRNAの機能解析から、複数の癌抑制型マイクロRNAを探索してきた。細胞内において、1種類のマイクロRNAは、極めて多くの機能性RNAを制御しており、また、機能性RNAは複数のマイクロRNAによって協調的に制御されている。この複雑な機能性RNAネットワークの解明は、腎細胞癌研究の新しい展開である。今後の研究方針として、癌抑制型マイクロRNAが制御する分子ネットワークの探索を行い、腎細胞癌に特徴的な、癌分子経路を明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由と使用計画)マイクロRNAの機能解析に使用する試薬が、他の研究と共有できたため、試薬や消耗品にかかる費用が節約できた。 (使用計画)癌抑制型マイクロRNAが制御する分子ネットワークの探索のため、マイクロRNAを核酸導入した細胞の遺伝子発現解析を行う予定である。この解析に使用する消耗品費用と、遺伝子発現解析の外注費用に充てる。
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