液体クロマトグラフィーでマウス精巣のD型アスパラギン酸(D-Asp)含有量を測定したところ、出生直後では極めて低い値であったが、徐々に上昇し、10週齢でピークとなりプラトーに達した。一方、L型アスパラギン酸の含有量は、発達段階における変化はみられなかった。一方、マウス精巣におけるD型アスパラギン酸分解酵素(DDO)の活性は、出生直後が最も高く、成長とともに低下し6過齢以降、ほとん ど活性を失ったまま推移した。マウス精巣を用いた免疫組織染色の結果、D-Aspは分化の進んだ精子細胞の細胞質に局在した。一方、分解酵素DDOはセ ルトリ細胞に局在した。In vitro精子形成法の培地にD-Aspを添加すると、濃度依存的にAcr-GFP Tgマウスで精子分化の指標であるGFP発現を抑制した。これにより精巣において精細胞の分化初期には抑制的に作用するにも関わらず、分化後期の精子細胞にD-Aspが局在することがわかった。また精子細胞の細胞質でD-Aspが合成されていると考えられた。 セルソーターを用いて、Acr-GFP Tgマウス精巣から分化の進んだ精子細胞、すなわちD-Asp含有細胞を単離した。この単離した精子細胞に対し細胞膜処理を施し、これとL-Aspの混合液からD-Aspが産生されているか液体クロマトグラフィーを用いて測定したがD-Aspの産生は確認できなかった。この結果からD型への変換酵素の活性は証明されていない状況にある。
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