前立腺癌の約半数に認められるTMPRSS2-ERG 遺伝子の転座は、アンドロゲンレセプター(AR)による両遺伝子の接近により誘導されるが、その分子機構については明らかになっていない。本研究では、AR が核内でdot 状の構造体(foci)を形成することに着目し、AR のfoci を足場として、両遺伝子の接近がおこるという仮説をたて、検討を行っている。 アンドロゲン投与によるTMPRSS2、ERG遺伝子間の距離計測を行ったが、十分な接近は得られなかった。そのため、Double Thymidine blockによるcell cycle同調や前立腺癌細胞株LNCaPの各細胞のcloningを行ったのちに、アンドロゲン投与によるTMPRSS2、ERG遺伝子間の接近の検討を行った。しかしながら、それらの条件下においても、両遺伝子間の接近が得られず、AR fociとの関係性も明らかではなかった。 次に、AR以外の因子が両遺伝子の接近に関わっている可能性を考え、ARと結合し、かつ染色体ルーピングを誘導する因子としてYing Yang 1(YY1)という転写因子の解析を開始した。薬剤誘導性のYY1ノックダウンベクターをLNCaPに導入し、YY1のノックダウンにて細胞増殖が低下することが確認された。さらに、その分子機構を明らかにするために、YY1をノックダウンした細胞でマイクロアレイ解析を行い、約80の遺伝子の発現が低下することを見出した。今後、YY1ノックダウンした細胞でのTMPRSS2、ERG遺伝子の距離について検討を行い、マイクロアレイの結果と併せて検討を行う予定である。
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