研究実績の概要 |
前立腺肥大症(BPH)モデルラットを使用して、補体成分(C1q, C3a, MBL, B因子, MAC)の発現機能解析をRT-PCR及びWestern blottingで行い、BPH組織で有意に補体成分の発現が増加していることがわかった。また補体は古典的経路・レクチン経路・第二経路の3経路により成り立つが、古典的経路、レクチン経路の活性化が先行し、2次的に第二経路の活性化が起きていることもわかった。また、免疫組織化学染色により、それら補体成分の発現は、BPH組織の間質領域に認められ、BPH増殖のうち、特に間質の増殖に関連することがわかった。古典的経路の活性化原因には抗原-抗体複合体の存在が考えられる。そのため、抗原-抗体複合体の存在を、IgGの免疫染色を行い証明した。この解析でも、抗原-抗体複合体は間質領域に優位に存在していた。またBPHモデルラットの血清IgGレベルも、対照と比較して優位に増加していた。さらに、抗原-抗体複合体の原因抗原を同定するため、免疫沈降及び質量分析を行なった。その結果、BPH組織内の抗原-抗体複合体の原因抗原として、α-SMA、β-actin、Hsp90、Annexinの4分子が同定された。またこれら4分子は、前立腺の原基である泌尿生殖洞組織中にも発現が認められるものもあり、胎生期より存在する自己抗原である可能性が考えられた。以上の結果より、BPHの増殖過程において、何らかの刺激で自己細胞より露出した自己抗原(α-SMA、β-actin、Hsp90、Annexin)に、抗体が結合することで、抗原-抗体反応を引き起こし、それが古典的経路・レクチン経路→第二経路の順に補体系を活性化させることがわかった。補体全体の活性化は2次的に炎症細胞誘導、組織リモデリングを促進することが知られており、前立腺の炎症から増殖過程に繋がると考えられる。
|