研究実績の概要 |
停留精巣は小児泌尿器科領域でもっとも頻度の高い先天性疾患であり、将来男性不妊になることが問題である。しかし、その病態はいまだ未解明である。本研究では、精子形成細胞でなく、精子形成を支持するセルトリ細胞に着目した。思春期、隣接するセルトリ細胞間に血液精巣関門(Blood-testis barrier: BTB)が形成される。BTB1は正常の精子形成に必須であるが、停留精巣における意義は明らかでない。胎児期に抗アンドロゲン剤であるフルタミドを暴露させ停留精巣モデルラットを作成し、思春期にあたる生後4週から6週の精巣を経時的に採取した。BTB構成タンパク(CLDN11,OCLN,Zo-1)の発現と局在を停留精巣と下降精巣、コントロールの3群で比較・検討した。その結果、停留精巣では下降精巣、コントロールと比較して、BTB構成タンパクの発現量に変化はないが、生後5週以降でそれらのタンパクの局在が異なった。さらに、電子顕微鏡での観察によりBTBの機能不全を確認した。精子形成細胞は、BTBが破綻した周囲の精細胞(精母細胞以降に分化した精細胞)がアポトーシスしていた。これらの結果から、停留精巣ではBTB構成タンパクの局在変化とともにその機能が失われ、造精機能障害につながることが示唆された。 セルトリ細胞は精子形成の足場となり、局所でのホルモン分泌や細胞間接着の成立を介して精子形成細胞の正常な分化をサポートする。これらの成果は、男性不妊症の新規治療法につながる可能性があると考えられた。
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