研究課題/領域番号 |
17K16812
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
荻原 広一郎 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (30626677)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / 膀胱癌 / CD44 / sulfasalazine / シスプラチン |
研究実績の概要 |
臨床組織切片を用いた免疫染色で癌幹細胞マーカーであるCD44vの発現と生命予後の関係を評価した。筋層浸潤性膀胱癌の臨床摘出検体63例を対象とし、免疫組織学的染色による統計学的検討を施行した。腫瘍中のCD44v陽性率が15%以上の腫瘍をCD44v高発現、15%未満の腫瘍をCD44v低発現腫瘍と定義し予後との関連を検討した所、CD44v高発現は再発及び癌特異的死亡の独立した予後危険因子であった。 この癌幹細胞を標的とした治療の確立のためにsulfasalazineを用いて検討を行った。このsulfasalazineは癌幹細胞の細胞膜上に存在するシスチントランスポーターのサブユニットであるxCTの機能を阻害し、細胞内グルタチオン(GSH)濃度を低下させ、細胞内活性酸素(ROS)レベルを上昇させる。マウス膀胱癌細胞株であるMBT2細胞及び当教室で確立したマウス肺に特異的に生着する膀胱癌細胞株であるMBT2V細胞の二つの細胞株を使用した。まず、双方の細胞でCD44vとxCTの発現をWestern blot法にて確認した。続いてこの二つの細胞株にsulfasalazineを投与した所、双方の細胞株において濃度依存的にsulfasalazineの抗腫瘍効果を認め、細胞内GSH濃度の低下と細胞内ROSレベルの上昇も認めた。さらにこの抗腫瘍効果がsulfasalazine特異的なものであることを示すために、抗酸化物質との併用投与を行った所、双方の細胞株で細胞死がレスキューされた。最後にROSを介して抗腫瘍効果を示すシスプラチン(CDDP)との併用投与をMBT2V細胞で検討を行った所、sulfasalazineとCDDPの併用投与により相乗効果を認めた。さらにWestern blot法では、併用療法によりCD44vの発現低下やリン酸化p38 MAPKの発現亢進を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目に臨床組織切片を用いた免疫染色及び各種細胞株を用いたin vitroでの実験を行う予定であり、いずれの結果もある程度は得られたと考えられる。 一方で臨床組織切片を用いた免疫染色は、筋層非浸潤性膀胱癌の検体に対して現在行っている段階であり、やや遅れていると思われる。また、in vitroに関しては、2年目に行う予定であるin vivo実験のためにマウス由来の膀胱癌細胞での実験はほぼ完了している一方、ヒト膀胱癌細胞での検討が進んでおらず、こちらもやや遅れているとの評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
1年目より行っている、筋層非浸潤性膀胱癌の臨床組織切片を用いた免疫染色を行い、浸潤性膀胱癌だけでなく、筋層非浸潤性膀胱癌でも癌幹細胞の存在と予後の検討を行っていく。 それと同時に、in vitroの結果を踏まえて、マウス膀胱癌同所性モデル及びマウス膀胱癌肺転移モデルを用いてsulfasalazineの抗腫瘍効果を検討し、膀胱癌に対する癌幹細胞を標的とした新規治療の確立を目指していく。
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