我々は乳癌における先行研究でMUC1が細胞内ROS環境を整えることで、鉄依存的な過酸化した脂質の蓄積によって細胞死をきたすferroptosisを抑制していることを報告した。本研究では、去勢抵抗性前立腺癌において、MUC1を標的としたドセタキセル(DTX)耐性去勢抵抗性前立腺癌に対するDTX感受性の改善、およびferroptosisを介した新規治療戦略を確立することを目的とした。 ホルモン感受性前立腺癌細胞株LNCap、去勢抵抗株C4-2、そして新規に樹立したDTX耐性去勢抵抗株C4-2AT6の3種類の細胞株を使用した。ferroptosis誘導を阻害するグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)の阻害剤であるML210、RSL3の2剤を使用した。 MUC1発現はLNCap<C4-2<C4-2AT6であった。MUC1の発現上昇とともに癌シグナル伝達経路であるPI3K/AKT経路においてp-AKTの発現上昇、およびアンドロゲン受容体の発現上昇を認めた。次に、C4-2AT6においてsiRNAを用いてMUC1をノックダウンしたところ、p-AKTの発現低下を認めた。また、MUC1をノックダウンしたC4-2AT6のDTX感受性を検討したところ、DTXの殺細胞効果が増強され薬剤耐性が改善されることを確認した。RSL3、ML210を投与すると、C4-2においてはferroptosis誘導による殺細胞効果を認めなかったのに対し、C4-2AT6においては著明な殺細胞効果を認め、MUC1をノックダウンすることで、さらに殺細胞効果が増強された。 MUC1を標的とし制御することは、DTX耐性を有した前立腺癌細胞に対してDTX感受性を回復させ、MUC1依存性が高い状態においてferroptosisが誘導されやすく、MUC1は新規治療戦略の対象として期待された。
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