研究課題/領域番号 |
17K16815
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
茂田 啓介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (10649875)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抗癌剤耐性 / MUC1C蛋白 / ROS産生 |
研究実績の概要 |
1)尿路上皮癌耐性株の樹立とMUC1C発現上昇の確認。 現在までに当教室で保有している膀胱癌細胞株であるT24、UMUC3を使用して、それぞれの細胞株を6か月間の間、CDDPおよびGEMに晒し、培養を継続することでCDDP、GEM耐性の膀胱癌細胞株を樹立した。抗癌剤耐性の確認には、WSTassay法を用いて抗癌剤感受性株と比較し、CDDP耐性株およびGEM耐性株において抗癌剤による殺細胞効果が減弱していることを確認した。次に、抗癌剤耐性膀胱癌細胞株4種において野生株と比較してMUC1Cの発現が蛋白レベルで亢進していることを確認した。 2)癌剤耐性株であるT24CR/GRとUMUC3-CR/GRにsiRNAを使用しMUC1Cをknock downしたのちに、GEM/CDDPそれぞれの薬剤を添加すると抗癌剤耐性細胞株において、薬剤の殺細胞効果が増強されることを確認した。 3)MUC1Cの発現上昇を認めているCDDP/GEM耐性株において、CD44v9および、xCTの発現上昇が相関して上昇していることを確認した。さらに、双方の耐性株にGEM/CDDPを添加後野生株と比較すると、濃度依存性に細胞内グルタチオン濃度の上昇、およびROS産生の低下を認めることを確認した。さらに、MUC1Cのknock downによりROS産生量の上昇も確認ができており、MUC1CがCD44v9-xCTと架橋構造を作成する事で癌細胞が酸化ストレスから回避できる機構を備えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた内容では、膀胱癌細胞が幹細胞化を認める機序としてCD44v9-xCT-MUC1Cの架橋構造が形成されると考えていた。 しかし、野生株においては、MUC1Cの発現そのものをとらえるのが困難であったため、抗癌剤による暴露で酸化ストレスに強い細胞が必要であった。当初、当研究室で樹立したT24PRと5637PRという2つの抗癌剤耐性細胞株を使用する予定であったが、MUC1Cの発現が野生株と比較し、有意でなかったため、再度T2とUMUC3の細胞を購入の下、新に耐性株の樹立を行った。そのため、約半年間にわたり抗癌剤耐性細胞株の作成に時間を要した。 結果、耐性株作成以降はおおむね計画していた仮説通りに進んでいると考えている。 今後はin vitroの解析を進め、in vivoの実験に移行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1)薬剤耐性のメカニズムの1つとして、薬剤排出性トランスポーターの発現上昇がMUC1C発現と相関していると報告されている。そのため、すでに各耐性株において、P-glycoproteinの一種でATP-binding cassette transporter(MDR1)蛋白の発現上昇を確認した。さらに、MUC1C knock downにより両細胞株においてMDR1のmRNAであるABCB1が著明に減少していることも確認した。これらのことから、MUC1CとMDR1の間には強い関連性があることが示唆され、今後MUC1C発現上昇株において、細胞内の抗癌剤濃度を測定する予定である。 2)過去の報告からMUC1CはHif1αを細胞内で安定化させ、嫌気下での糖代謝迂回路を亢進させ、薬剤耐性を獲得すると報告されている。当院のCDDP/GEM抵抗株においてもHif1α蛋白の増強を確認した。よって、今後野生株と耐性株での糖代謝経路の変化の解明をメタボローム解析を行うことでさらに進めていく予定である。 3) MUC1阻害剤であるGO-203を今後各耐性株に投与し、標的蛋白がどのように変化するかを確認するよていである。 4)今後、各耐性株と各野生株でのMUC1C発現量の確認とその抗腫瘍効果を比較、検討する予定である。
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