膀胱癌細胞株T24、UMUC3を持ちいてCDDPを濃度依存性に12か月間暴露し、CDDP耐性株T24CRとUMUC3CRを樹立した。CDDP耐性株はPI3K/AKT経路活性化に伴い薬剤排出性トランスポーター(MDR1)の発現が亢進していた事に加え、細胞内シスチントランスポータ-であるxCTとCD44v9の有意な亢進が確認された。これらの結果からCDDP耐性株は薬剤排出機構の促進とシスチンの細胞内取り込み促進による抗酸化作用の増強が耐性メカニズムの中心であることが示唆された。 この一連の耐性機序が癌細胞膜上に存在するムチン1型C末端ペプチド(MUC1C)に起因すると考えた。野生株と耐性株におけるMUC1C発現を確認したところ、T24CR/UMUC3CR両耐性株においてMUC1CはmRNAレベル、および蛋白レベルで有意に亢進していることを確認した。ヒト臨床検体におけるMUC1C発現の検証には2000-2014年において腎尿管全摘除術を行った238例の上部尿路上皮癌の内、術後補助化学療法を行った81例を対象とし、MUC1Cの発現を確認した。結果、MUC1C陽性群は独立した再発規定因子であった。次に耐性株にsmall interfering RNA法を用いてMUC1Cをknock downしたところ、CD44v9、xCT、MDR1の有意な発現抑制を認めたことを確認した。MUC1C阻害剤であるGO-203(Harvard Universityより寄贈)を使用し、MUC1C阻害剤とCDDPの併用効果を検証した所、CDDP耐性株において一部抗癌剤感受性が回復する事を確認した。 これらの結果から、MUC1Cは難治性尿路上皮癌に対する治療標的になりうると考えられ、膀胱癌に対する新規治療戦略としてのMUC1C阻害剤の有用性が示唆された。
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