研究課題/領域番号 |
17K16827
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小幡 美由紀 山形大学, 医学部, 非常勤講師 (70613066)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 子宮体部漿液性癌 / スルファサラジン / 薬剤抵抗性 / フェロトーシス |
研究実績の概要 |
癌細胞の薬剤抵抗性機構の一つに抗癌剤によって誘導される活性酸素(ROS)を抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)が抑制する機構(レドックス制御)がある。スルファサラジン(sulfasalazine; SAS)は潰瘍性大腸炎や関節リウマチの治療薬として使用されており、GSH産生の阻害作用を持つ。本研究ではSASが子宮体部漿液性癌(USC)における薬剤抵抗性を解除し、drug repositioningの観点からSSZがUSCの対する新規治療薬となり得るかを検討することを目的とする。USC細胞株でpaclitaxel感受性株(USPC1)とpaclitaxel耐性株(PTX1)において、スルファサラジン(SAS)が細胞増殖能とpaclitaxelへの感受性に与える影響を検討した。両細胞においてSAS投与によって濃度依存性に細胞増殖抑制効果を認めたが、SASの細胞増殖抑制効果はPTX1でUSPC1に比較して高かった。両細胞においてSASとpaclitaxelを併用投与することでpaclitaxel単剤投与に比較して細胞増殖抑制効果が増強した。SASがレドックス制御機構に与える影響とUSC細胞株の細胞死誘導機序について検討した。SAS投与によりUSPC1、PTX1ともにグルタチオン濃度が低下したが、活性酸素(ROS)濃度はUSPC1で増加を認めず、PTX1では増加した。さらにSAS投与によりコントロール(PBS投与)と比較して死細胞が増加したが、この効果はPTX1でUSPC1より高かった。PTX1においてSASとフェロトーシス阻害剤であるferostatin-1を併用投与するとSAS単剤投与時に認めた細胞増殖能の抑制と死細胞の増加が解除された。これらの結果からSASはグルタチオン産生を抑制し、フェロトーシスを誘導することでpaclitaxel抵抗性を解除することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子宮体部漿液性癌細胞株においてSASがレドックス制御機構に働き、フェロトーシスを誘導することでpaclitaxel抵抗性を解除することが明らかになった。しかしながらUSPC1に比較してPTX1でSASの細胞抑制、死細胞誘導効果が高い機序が明らかになっていない。我々はUSPC1、PTX1においてSASによるフェロトーシス誘導機序が異なるためではないかと予測し、ROSとRas signalの合成致死に着目し検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
子宮体部漿液性癌細胞株のpaclitaxel感受性株(USPC1)とpaclitaxel耐性株(PTX1)ではSASの殺細胞効果がPTX1でより高かったことからこれら細胞株におけるフェロトーシス誘導機構に着目し、研究を進める。フェロトーシスが誘導されるにはROSの上昇とRas signalingの活性化が必要であると予測され、USPC1とPTX1におけるRas signaling経路の発現状況を検討する。さらにRas signaling経路をsiRNAや特異的な薬剤で阻害することでSASによるフェロトーシスの誘導作用がどのように変化するかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
in vitroでの検討がおおむね順調に結果が出たので実験に使用する消耗品購入額が予算より低くなったため。 現在レドックス機構と婦人科がんの関連を検討するため、当施設倫理委員会の承認を受け、臨床検体を使用して酸化ストレスと還元力の検討を行っている。その測定用キットとデータ解析用コンピューターに次年度使用額を使用予定。
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