本研究ではグルタチオン(GSH)産生阻害剤であるスルファサラジン(sulfasalazine; SAS)が子宮体部漿液性癌(uterine serous carcinoma;USC)における薬剤抵抗性を解除し、drug repositioningの観点からSASがUSCの対する新規治療薬となり得るかを検討することを目的としている。 これまでの研究で、子宮体部漿液性癌細胞株paclitaxel感受性株(USPC1)とpaclitaxel耐性株(PTX1)では細胞内GSH濃度がUSPC1よりPTX1で高いこと、SASの殺細胞効果がPTX1でUSPC1より高いこと、その機序がアポトーシスではなく、新たな細胞死機構であるフェロトーシスが誘導されるためであることが明らかになった。さらに、子宮体部漿液性癌細胞株においてSASによるフェロトーシス誘導機序はRsa signalingの下流に位置するJNK signalingと関連しており、JNK signalingが増強している細胞ではよりSASの抗腫瘍効果が高い可能性があることが明らかになった。 本年度は、in vivoでのSASの効果を確認するためSCIDマウスへUSPC1を接種し、SASの投与を行ったが、SASによる腫瘍形成の抑制効果は認めなかった。さらにレドックス機構と婦人科がんの関連を検討するため、当施設倫理委員会の承認を受け、臨床検体を使用して酸化ストレスと抗酸化力の検討を行った。子宮体癌、卵巣癌患者では、良性腫瘍に比較して酸化ストレス(d-ROMs)の増強は認められなかったが、還元力(BAP)は有意に低下していた。現在、患者血清を液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)による成分解析を行い、BAP低下に関連した物質の特定を行っている。
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