研究課題/領域番号 |
17K16840
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
津吉 秀昭 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (90593864)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 抗癌剤抵抗性卵巣癌 / 細胞内カルシウム伝達 / ミトコンドリア分裂 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実施計画、”細胞内カルシウム伝達を活性化させるSsdがミトコンドリア分裂とアポトーシスを誘導するメカニズムを、in vitroで証明する”、においては、Ssdが、Drp1のミトコンドリア融合に関わるリン酸化を抑制するだけではなく、ミトコンドリア融合タンパクであるOpa1が誘導するミトコンドリア融合の抑制、更には細胞内カルシウム濃度を上昇させることによってミトコンドリア膜電位の消失とDrp1の上流タンパクであるCaMK1の活性化、という異なる作用機序によって抗癌剤抵抗性卵巣癌細胞においてミトコンドリア分裂とアポトーシスを誘導することを証明した。また、癌細胞の増殖において重要な経路の一つである細胞周期へ与える影響を、チェックポイント機構に焦点を当てて検証し、抗癌剤抵抗性との関連とSsdがもたらす影響についても証明した。これらの機序をまとめて、いくつかの学会発表を行い、更には論文発表も行うことができた(Oncotarget. 2017 8(59):99825-99840.)。 平成30年度は、以後の研究実施計画に記載した、”卵巣癌患者の摘出標本におけるDrp1及びその関連タンパクの発現と予後との関連を後方視的に検討する”、において、約50人の卵巣癌患者の残余組織検体からパラフィンブロックを作製し薄切、in vitroで証明した細胞内カルシウム伝達およびミトコンドリア分裂に関連するタンパク発現を免疫組織化学検査によって証明し、その発現と患者予後との関連について現在解析を行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度のin vitroでの研究結果から、卵巣癌細胞株において抗癌剤抵抗性の原因となりうる細胞内カルシウム伝達およびミトコンドリア分裂に関連するタンパクが、卵巣癌患者の予後とどのように相関するかについて、研究実施計画に沿って以下の実験を行った。 ①ミトコンドリア分裂タンパクであるDrp1、ミトコンドリア分裂・融合に関連するリン酸化Drp1のタンパク発現を、約50人の卵巣癌患者の残余組織検体からパラフィンブロックを作製し薄切、免疫組織化学検査を行い、その発現と予後との関連について検討する。 ②また、細胞内カルシウム伝達に関わるタンパクであるCaMK1および活性化タンパクであるリン酸化CaMK1も同様に卵巣癌患者の残余組織検体を用いて免疫組織化学染色を行い、その発現と予後との関連について検討する。 卵巣癌患者の残余組織検体の収集にやや時間を要したが、現時点で免疫組織化学染色はすでに終了しており、その発現の広がりや強度について分析し、患者の無増悪生存期間や全生存期間との関連を解析しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年以降の研究実施計画である、”卵巣癌患者の摘出標本におけるDrp1及びその関連タンパクの発現と予後との関連を後方視的に検討する”、に関しては、上述の通り免疫組織化学染色はすでに終了しており、現在解析を行っているところである。 また、”異種移植マウスモデルにおいて、ミトコンドリア動態の調節が、腫瘍増大や生存に及ぼす影響を観察する”、については、共同研究施設であるオタワ大学Tsang BK教授の研究チームで確立された方法を用いて、p53変異卵巣癌細胞を移植した異種移植マウスモデルの作成を行うところである。作成後は、腫瘍の成長を確認した後、Ssdあるいはシスプラチンで治療を行い、in vitro実験において関連を証明したDrp1及びその関連タンパクの発現変化を免疫組織学的検査などで評価し、腫瘍の成長と抗癌剤抵抗性との関連を証明する予定である。またアニマルCTあるいはPETを用いた分子イメージングにより治療中及び治療後、腫瘍径、転移病変、無増悪及び全生存率を評価することで、臨床応用への可能性を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は、研究実施計画である”異種移植マウスモデルにおいて、ミトコンドリア動態の調節が、腫瘍増大や生存に及ぼす影響を観察する”を開始、かつ、”卵巣癌患者の摘出標本におけるDrp1及びその関連タンパクの発現と予後との関連を後方視的に検討する”を引き続き行う予定であり、マウスの購入、異種移植モデルの作成、あるいは、卵巣癌患者の摘出標本からの切片の作成、免疫組織学的検査などにかかる費用が、令和元年度の資金のみでは足りなくなる恐れがあること、また、これらの実験開始が年度末、年度初めと重なってしまったことが、次年度使用額が生じた理由である。
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