糖鎖のうち、O-グリカン鎖のcore2分枝構造の形成に係わる酵素Core 2 β1-6 N-acetylglucosaminyl transferase 1 (C2GnT1)は、腫瘍細胞の悪性形質の獲得に重要な役割をもつと考えられている。我々はこれまでに子宮内膜癌において、C2GnT1高発現が独立した予後因子であることを報告した。本研究では、卵巣癌におけるC2GnT1発現とそれにより形成される糖鎖構造の機能を解析し、新規治療ターゲットとなる可能性を検討することを目的とする。卵巣癌組織においてC2GnT1抗体を用いた免疫染色による検討では、腫瘍細胞中の染色陽性細胞の割合は、漿液性癌 26.8、明細胞癌 72.5、類内膜癌 47.5、粘液性癌 66.8 と、漿液性癌で低く、明細胞癌、粘液性癌で高い傾向を認め、組織型により発現が異なると考えられた。卵巣癌全体での予後解析では、陽性率の高低と予後との関連性は認められなかったが、一般的に抗がん剤耐性である明細胞癌、粘液性癌で発現が強いことから、抗がん剤耐性への関与が考えられた。また細胞株での検討では、卵巣癌細胞株ES2、A2780、OVCAR3、OVTOKOに対して、C2GnT1 cDNA導入により発現増強させると、A2780、OVCAR3ではWST1 assayにより増殖能の亢進が観察された。またTranswell migration assayおよびWound healing assay (Scratch assay)による検討では全ての細胞株でC2GnT1発現増強により遊走能の亢進が確認された。またMatrigel invasion assayではES2、OVCAR3、OVTOKOで浸潤能の増強が観察された。このように、C2GnT1高発現とそれによる糖鎖構造が卵巣癌細胞の悪性度上昇に関与していると考えられた。
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