研究課題/領域番号 |
17K16844
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大須賀 智子 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30778296)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多嚢胞性卵巣症候群 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
妊娠16-19 日齢のWister rat にアンドロゲン (DHT: dihydrotestosterone) またはvehicleを投与し、出生仔をPCOS モデルラットとコントロールラットとした。性周期の評価など、表現型の解析ののち、9-10 週齢に組織(視床下部、肝臓、膵臓、脂肪、卵巣)、血清の採取を行った。組織からゲノムDNA、mRNAの回収、ゲノムDNA に対し、メチル化DNA濃縮法を用いてCpG領域のメチル化DNAを抽出、高速シーケンスを用いたメチル化部位のシーケンスを行った。得られた結果はラットのゲノム情報へのアライメントを行い、遺伝子領域の解析、主成分分析、Gene Ontology解析等を行った。 モデルとコントロール間の比較で肝臓でのみ変化を示したものはCyp19a1、Esr2、視床下部でのみ変化を示したものはKiss1r、GnRH1、Leptin、肝臓、視床下部ともに変化がみられた遺伝子にFgf21、Igf1rが認められた。また、Gene Ontology解析では、肝臓では代謝プロセスに関連するクラスターが、視床下部では、神経伝達物質に関連するクラスターが検出された。 発現解析として、定量PCR法を用いた解析を行った。肝臓におけるFgf21の発現には、PCOSモデルラットとコントロールラット間で、発現量に差が認められた。Igf1rは、視床下部、肝臓ともにPCOSモデルラットで発現量が低下傾向にあったが、いずれも有意差は認められなかった。 臓器間でDHT投与によるメチル化状態の変化には相違がみられた。一方で、糖代謝や卵胞発育に関連するとされるIgf1rについては、視床下部、肝臓ともに変化が認められた。このような臓器間の相違がPCOSの複雑な病態の要因となっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた、PCOSモデルラットの作成を行い、表現型解析の後、複数臓器検体の摘出を行った。摘出した臓器の一部(肝臓、視床下部)におけるDNAメチル化状の変化の評価を、コントロールラットとPCOSモデルラット間、臓器間で比較した。DNAメチル化状態に変化の認められた遺伝子について、主成分分析、Gene ontology解析、パスウェイ解析を行った。また、とくに生殖生理と糖・脂質代謝に関連する遺伝子について、コントロールラットとPCOSモデルラット間、臓器間でのDNAメチル化状態の変化について評価を行った。まず、プロモーター領域に変化を来した遺伝子数を検討したところ、肝臓に比して、視床下部のほうが多いことが見出された。変化を来した上位1000遺伝子について、PCOSモデルの視床下部、肝臓、コントロールラットの視床下部、肝臓の4グループで主成分分析を行ったところ、グループ間で、メチル化状態の変化にばらつきがみられることが示された。生殖生理や糖・脂質代謝に関連する個々の遺伝子についてプロモーター領域に変化を来したものを臓器間で比較したところ、異なる変化を示したものと同様の変化を示した遺伝子が認められることがわかった。 また、クラスター解析では、視床下部では神経伝達物質に関連するクラスターが、肝臓では、代謝プロセスに関連するクラスターが検出された。 コントロールラットとPCOSモデルラット間で、プロモーター領域のメチル化状態に変化のみられた遺伝子の発現について、mRNAレベルでの、発現を評価した。 ヒト検体については、倫理委員会への申請を行い、同意の取得と検体の採取を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
PCOSモデルラットとコントロールラットにおける視床下部と肝臓の検討から、臓器間でDHT投与によるDNAメチル化状態の変化に違いがあることが示された。今後は、臓器の追加による解析を行う予定である。すでに検体は採取してあるため、膵臓、脂肪、卵巣などの解析を順次行う。複数の臓器間で共通して変化を示す遺伝子は、PCOSの病態において重要な因子であると予測されるため、mRNAやタンパクレベルにおける発現解析を行う。 モデル動物において、複数臓器で共通して変化のみられた因子については、ヒト検体においても、発現解析や血清中濃度の評価などを、メチル化DNAの解析に先行して行う。 ヒト検体については、当初当院不妊外来に通院中のPCOS患者を予定していたが、子宮体癌患者が高率にPCOSを併発していることから、子宮体癌患者の検体も用いる。子宮体癌患者では、手術で卵巣を摘出するため、不妊治療中の患者では得ることのできない、卵巣検体を得ることができる。 モデル動物を用いた解析結果より、PCOSの病態に寄与すると予測されるDNAメチル化変異の候補が挙げられるため、ヒト検体では、これを活かし、DNAメチル化変異の検索を行う遺伝子をある程度絞ることで、費用と時間の効率化を図る。具体的には、当初予定していたInfinium HumanMethylation450 BeadChip Kitにかわり、EpiTect Methyl II Custom PCR Arrayを用い、モデル動物で変異のみられた遺伝子の解析を中心にDNAメチル化プロファイリングを行う。これにより、最終的な目標である、新規治療ターゲットの同定をより早期に行うことができると期待される。 新規治療ターゲットの同定ののち、モデルラットを用いた新規治療法の効果検討を行う。ヒト検体については、ヒト由来細胞や卵巣組織培養による検討を予定している。
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