研究課題
多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) の新規治療ターゲットを解析するため、胎生期アンドロゲン投与により作成したPCOSモデルについて、DNAメチル化変化に着目し、これまでヒトやモデル動物で網羅的な解析の行われていない臓器である視床下部と肝臓における解析を行った。モデルラットは胎生16-19日目に経母体DHT投与により作成した。PCOS様表現型として、性周期の異常と血清LH (luteinizing hormone) 値高値、卵巣の多嚢胞化所見を確認した。視床下部と肝臓について、DNAメチル化解析、RNA-seqによる遺伝子発現変動の解析を施行した。プロモーター領域のDNAメチル化変化の解析では、モデルにおいてコントロールに比して高メチル化を示した遺伝子は視床下部で500、肝臓で200、内共通する遺伝子は20であった。低メチル化を示した遺伝子は視床下部で424、肝臓で186、内共通する遺伝子は12であった。RNA-seqにおける発現変動遺伝子 (FC>2, p<0.05) 数は視床下部で12、肝臓で57、内共通したものは3遺伝子であった。視床下部と肝臓で共通して変化を示した遺伝子では、メチル化変化と発現変動遺伝子との関連は示されなかった。メチル化変化と発現変動を示した遺伝子は、視床下部でVglut1 (高メチル化/発現低下)、Bcmo1 (低メチル化/発現低下)が認められた。さらに、肝臓のRNA-seqにおいて、遺伝子発現変動のみられたアディポカイン・ヘパトカインにLect2、Rbp4が認められた。このうちRBP4は、ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) にて血清濃度の上昇が確認された。
3: やや遅れている
モデル動物の作成と、DNAメチル化解析、RNA-seqによる発現解析とそれらの比較を施行し、治療標的となる可能性のある分子の候補を選出することができた。一方で、当該分子についてのヒト検体を用いた解析や、モデル動物等を用いた治療薬候補の検討までは至らなかったため。
これまでのモデル動物を用いた検討により、メチル化変化と発現変動を示した遺伝子は、視床下部ではVglut1 (高メチル化/発現低下)、Bcmo1 (低メチル化/発現低下)であった。VGLUT1-positive glutamatergic neuronはストレス反応における褐色脂肪細胞の熱産生やGnRHニューロンの制御に関連するという報告がある。またBCMO1の遺伝子多型とPCOSの関連の報告がある。さらに、肝臓のRNA-seqにおいて、遺伝子発現変動のみられたアディポカイン・ヘパトカインにLect2、Rbp4が認められた。このうちRBP4は、ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) にて血清濃度の上昇が確認された。RBP4はヒトPCOSにおける血中濃度の上昇の報告がある。またPioglitazoneやfenretinideなどの下降剤がある。これらのモデルにおいて変化の認められた分子を対象に、今後ヒト検体を用いた評価や、モデル動物によるin vivo,ヒト由来の組織や細胞を用いたex vivoやin vitroの解析を行い、治療標的としての解析を行いたい。
2020年3月に参加予定であった国際学会が、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点より、中止となったため。
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