研究課題/領域番号 |
17K16849
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 有里 大阪大学, 医学部附属病院, 助教 (90756488)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 子宮体癌 / 好中球増多 / TAN / CXCL8 / STAT6 / HIF-1 |
研究実績の概要 |
好中球増多を伴う子宮体癌において、好中球の腫瘍内浸潤を促すメカニズムの検討を行うにあたり、腫瘍細胞が何らかのケモカインを分泌しケモカイン受容体を発現する好中球に対して走化性を引き起こすという仮説をたて証明を行った。まず、マウスモデルを用いて、皮下腫瘍と血液を網羅的に解析し、責任ケモカインの候補をCXCL8と同定、その受容体であるCXCR2が好中球増多モデルの末梢血から抽出した好中球に発現していることを確認した。次に細胞動態解析装置を用い、循環好中球がCXCL8の濃度勾配に従って遊走することを証明した。また、CXCR2 antagonistによりChemotaxisが抑制されることを確認した。続いて、ヒト検体を用いた検討を行った。同意を得られた子宮体癌手術症例において、循環好中球と、摘出した原発腫瘍片から抗CD66b抗体ビーズ法にて抽出したTAN上にもCXCR2が発現していることを確認した。 続いて、循環好中球からTANへの分化を促進するメカニズムの検討を行うにあたり、子宮体癌細胞が液性因子Xを分泌し、腫瘍内に侵入した好中球をTANに変化させると仮定し、証明を行っている。まず、マウスの好中球増多モデルのTANおよび循環好中球のCD8+T細胞抑制能を、T cell suppression assayにて検討し、TANと循環好中球の機能の違いを検討したところ、循環好中球のCD8+T細胞抑制能は低く、TANのCD8+T細胞抑制能は高いという結果であった。子宮体癌細胞株と好中球増加モデルの末梢血から抽出した好中球を共培養し、癌細胞の分泌タンパクおよび遺伝子発現を解析した結果、STAT6、HIF-1を因子Xの候補と同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年後の目標として、好中球の腫瘍内浸潤を促すメカニズムの検討と、循環好中球からTANへの分化を促進するメカニズムの検討を挙げていたが、好中球の腫瘍内浸潤はCXCL8を介したメカニズムであることを証明し得たこと、循環好中球からTANへの分化を促進するメカニズムは候補因子を同定し得たことより、概ね予定通りと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、循環好中球からTANへの分化を促進するメカニズムの検証を引き続いて行う。 因子X候補と同定したSTAT6、HIF-1が、循環好中球のTANへの分化を促進するかを検証する。好中球によるCD8+T細胞抑制能の変化を指標とし、これらの因子が好中球のCD8+T細胞抑制能を増強するかどうか検証する。続いて、マウスモデル、ヒト検体にて好中球増多を示す腫瘍中にこれらの因子の発現が亢進しているかどうかの検証を行う。 次に、TAN特異的阻害治療の開発と有効性・安全性の検討を予定している。これまでの実験結果より、CXCR2 antagonist、STAT6 inhibitor/HIF-1 inhibitor を「TAN特異的阻害治療」と考え、その有効性と安全性をマウスモデルで検討する。好中球増多モデルおよび対照モデルに対し、これらの阻害薬またはプラセボを投与し、①腫瘍内のTAN数が減少するか、②腫瘍の発育、進展が抑制できるか、③生存期間が延長するか、④阻害薬の長期投与によって重篤な合併症が発生しないか、を検討。我々は、「TAN特異的阻害治療は、好中球増加モデルでのみ有効性を示す」、または「両方のモデルで有効性を示すが、好中球増加モデルでより強い抗腫瘍効果を示す」と予想しており、そのような結果が観察されれば、好中球増多を伴う(TAN増多を伴う)子宮体癌に対する個別化治療の開発につながると考えている。続いて、Off-target効果がないことを確認する。好中球増加モデルの循環好中球を無菌的に抽出し、これらにTAN特異的阻害薬またはプラセボを投与し、循環好中球への影響をBrdU assayおよびApoptosis assayで検討する。
|